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肆拾肆
ソレからは地獄だった。切望と困惑を隠しきれない藤梅に取っては。
そう、僕はワザとみせつけるようにテレビ電話に切り換えて、いまの僕たちのあられもない姿を藤梅に洗いざらい醸しているのだから。だけど、間違ってはいけない。コレは、断罪ではない。だって。
《──ん?そう?でもほら、想像してみて。れいの大好きなエリック・ワールドが歌ってる最中に、れいの大好きなおちんちんでこの中をずこずことされているところをさ───》
僕の耳許で囁いた雪梅のこの言葉を、僕は実行しているのに過ぎないのだから。
つまるところ、藤梅は腐ってもエリック・ワールドなのである。ソレに、こんなチャンス、もう二度とないかもしれないのだ。生エリック・ワールドの声をこんなにもダイレクトに聞くことは。
そんなことを考えてひとり紅濁する僕に、藤梅は必死だった。
『艷黎、止めなさい。いますぐ、雪梅から離れなさい』
「ふっふ、どうして?物凄く気持ちイイことなのになんで止めないといけないの?」
意味が解らないと、僕は雪梅から唇を離して電話越しの藤梅にいまの僕の姿を醸した。くらくらとする瘴気に充てられて、僕の成すことはとても正気ではない。スマホから聞こえてくる藤梅の息遣いに、僕の身体は熱を帯びたように火照って、尋常ではないくらい興奮していた。
『当然でしょう?艷黎は私のことを愛しているんでしょう?だったら、バカな真似はよしなさい!』
「バカな真似?ふっふ、可笑しい。だって、僕はこんなにも藤梅のことが大好きで愛しさが止まないから、こんなふうにもっと大好きで殺したいくらい愛している雪梅に抱かれているんだよ?」
だから、藤梅、お前はそんな僕に欲情して強欲に僕を求めないとダメでしょう?
僕はそういう。そんな僕の中を丁寧に解かしている雪梅は「物凄く綺麗だよ、れい」と囁いていた。
「──んんっ、…………あっ、ちぃい!もっと奥を触って──!!」
聴覚と視覚に犯されて僕はおねだりをするけど、雪梅はソレを許してくれなかった。
「そう?だけど、れい、私になにか訊かないといけないことがあるでしょう?」
訊かないといけないこと?と首を傾げたが、唇を雪梅の長い人差し指でなどられて、ああ、そうだったと僕は僕自身になにも選択肢がないことを思いだすのだった。
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