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Ⅱ
その頃、天夢と雷梅は僕の機嫌を損ねないように距離を置いたのか、その日の予定だったのか解らないけど、南海岸にきたらココだというリゾートビーチに遊びにいっていた。
「黎くん、だいぶ拗ねていたけど大丈夫かな?エリック・ワールドのコンサートも中止になっていたようだし………」
まだ昨日のことを深く反省している雷梅はそういって僕のことを心配していたようだったけど、天夢はそうでもなかったようだ。
「雷梅、そう気にすることないよ。もともと、僕はあのエリック・ワールドっていうシンガーソンガーは嫌いだったし」
だから、エリック・ワールドがだれと婚約しようが結婚しようが僕には関係ないと、そう雷梅に応じていたから。
「関係ないって、天夢くん、君も結構ファンやっていたじゃない?」
「ん?ああ、アレは父さまや母さまの会話に合わせるためだけで本意じゃないよ」
天夢はさらりとそういって、「頭ごなしに両親の趣味を否定するのはよくないでしょう?」と物凄く大人ぶったことをいう。だけど、「雷梅がエリック・ワールドのファンだっていうなら、僕は全力で好きになってあげたよ」といい切るのだ。
「はっは、ソレは物凄く有り難い申しでだと思うけど、実は私もあのエリック・ワールドにはどうも同調や共感を持てないんだ」
雷梅は物凄く申しわけないようにそういうけど、天夢はけろっとした顔で応じる。
「うん、知ってる。雷梅はふたちゃんのユリ姫がイイんでしょう?」
水梅が脚本を書いているドラマキャストのことをいって、だけど、天夢と瓜ふたつの性格をしているから好きだとまではいわない。
「───っ!!………そ、だけど………」
「別に、雷梅を責めてるワケじゃないよ。僕も本意ではないけど、エリック・ワールドのファンやっていたんだし」
お互いさまでしょうと、趣味のことに関しては口をださないと天夢はいうのだ。ソレもそうだ。天夢の趣味が僕と雪梅のアーン鑑賞なのだから。そう、生でぱこぱこやっているところを目を輝かせてみるんだから、テレビ鑑賞で鼻の下を伸ばしている雷梅に口だしなんかできるハズがない。
雷梅もソレを解っているから、僕と雪梅のアーンを瞬きひとつしないでみる天夢を叱ったりしない。たまに暴走する僕たちを止めに入ることはあっても大抵は傍観者である。
ソレはさておき、雷梅は曇った顔をする。天夢はどうしたの?という顔で首を傾げた。
「あ、いや、その、結羽くんは解るけど、なんでじい様がいるのかな?って」
片手にホームビデオを持っている結羽は解りたくないけど、いっ緒にいる理由が解る。だけど、その横に並んで「おお、曾孫、アレはなんじゃい」と大はしゃぎしている曾祖父の存在がどうしても解せないらしいのだ。
「う~ん、なんか僕よりも結羽の方が曾孫してくれるらしくって、結羽についてきてるみたい」
気にすることないよと、コレまた冷静沈着に物事をみて報告する天夢は、曾祖父の存在は空気のような扱いである。確かに天夢は僕の分身みたいなモノだから、曾孫というよりも孫扱いなのであろう。ソレに、初対面から曾祖父の首根っこを掴んでいる天夢としたら、曾祖父の偉大さは霞に近いぞんざいなモノなのかもしれない。
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