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  「黎様、お食事です。どうしますか?」 昼食を運んできた執事長がそう訊くのは、僕の身体を心配してではない。雪梅の膝の上で食べるのかそうでないかを訊いているのだ。 「ココで食べる」 僕は跨がった雪梅の太股を叩いて、「雪梅もその方が嬉しいでしょう?」と雪梅からまったく離れようとしない僕をみて、物凄くご機嫌だった。 「ああ、とても嬉しいよ。じゃ今日も私が食べさせてあげよう」 雪梅はそういって、サーモンやイワシのマリネなどが入った冷菜が盛られた皿から僕の口にフォークでソレらを運ぶ。僕は、イカ墨とポレンタを練り上げたモノにグアンチャーレと海老が添えたモノが盛られた皿から海老だけをフォークで刺して、雪梅の口に運んだ。 「美味しい?」 僕はモグモグと口を動かしながら、雪梅に食べさせた海老の感想を聞く。雪梅は首を傾げながら、普通かな?と応えるのは僕が海老に抵抗があるからだろう。 「そ、じゃ要らない」 僕は素っ気なくそう返して、ハムとモッツアレッラチーズの盛り合わせがのった皿やブルスケッタの盛り合わせがのった皿を指差すと、アレが食べたいとせがむ。だけど、雪梅は花ズッキーニとモッツァレッラチーズ、アンチョビをのせたモノを僕の口に運ぶのだ。 「アレは最後。れい、ほらアーンして」 口を大きく開けない僕にそういって、雪梅は強制的に僕の口の中に押し込む。そう、雪梅は好きなモノは最後に食べた方が美味しいという性格だから、取って置きはいつも最後に食べさすのだ。僕としては好きなモノから食べる方だから不満が大きい。だけど、花ズッキーニのフライはとても美味しいから文句はいわない。 「じゃ、雪梅はコレね♪」 そんな僕はトマトとアンチョビのブルスケッタの皿に添えてあるルッコラの葉を掴むと、雪梅の口に押し込んだ。あまり野菜を食べない雪梅が唯いつ美味しいというから、僕は率先してルッコラの葉を雪梅に食べさせる。だけど。 「れい、アラゴスタのサラダが食べたい」 僕があまりにもルッコラの葉ばかりを運ぶからそういって、ルッコラやキノコ、コーンやチコリに甘いドレッシングがかかったモノを指差す。執事長もちゃんと考えてんだと、僕はテーブルのいち番奥に置いてある皿をみて感心した。 テーブルの奥にあるのはさすがに手が届かないから執事長が小皿に取り分けてくれる。手際のよさは認めるが、僕の皿に海老をのせるのはやめて欲しかった。当然、僕は海老だけは口にせず、あとは綺麗に平らげていた。  

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