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Ⅸ
「───ゴメン──、艶黎───」
そう重く絞りだす藤梅の言葉が僕の感情に届くハズがない。また、僕の身体を抱っこしている雪梅の腕に力が入ったとしても、ソレは僕に対して向けられたモノではないから、僕の言葉の節々に悪意が込められていてもどうってことはない。
「ん?なにが?エリック・ワールドだって僕に黙っていたこと?ソレとも、僕の愛惜しい人に憎しみを向けていることかな?」
ああ、違うか。せっかく、気持ちよくアンアン哭かされようっていうときにこんなふうに邪魔しにきたことにだよね♪と、僕は雪梅の唇に舌を這わせてそうだよね♪と無理やり藤梅に同意を求める。藤梅の唇がわずかに歪んでも、どんなに後悔してももう藤梅のその手で僕に触れるという権限は二度とないと睨みつけてやった。なのに。
「───聞いておくれ───、頼むから……」
とりつく島もないこの状況でまだ藤梅は僕になにかをいおうとしているようだったから、僕は寛大な心でこういってあげた。
「もう、仕方がないな。ま、僕も鬼じゃないからコレまでのことはぜんぶ許してあげるよ。だけど、義兄さん、僕はいまから雪梅に気持ちよく哭かされる予定なんだ。だから、義兄さんの相手はできないかも。まんがいち、いや、おくがいち、僕が雪梅に飽きたら相手してあげてもいいんだけどさ、義兄さんはソレまでちゃんとイイ子で待ていられるの?」
と。ソレはもう実りがないと断言していることなのだけど、藤梅は馬鹿みたいに大きく頷いた。コレをウンデルがみていたら、彼女は物凄く悲しむだろうけど、ソレは仕方がないこと。でも、その分の希望はあった。そう、どう足掻いても藤梅の望みは叶わないのだから。
僕は本当、哀れで救いようがないヤツだと思いながらでも、昨夜のあの状況からココまで辿り着いたことには過大な評価を下していた。雪梅と比べたらソレは月とすっぽんだけど、僕が思っていた以上にできる子だったらしい。
そう傾く心に雪梅ではなく、執事長の顔が大いに歪んだ。今朝の僕の言葉に反応したのだろう。
「黎様、お戯れが過ぎますよ」
貴方は雪梅様のモノでしょう?といいたげな執事長の口振りは、そうだとしか思えなかった。そんな僕は、あんなことタダの気まぐれの発言だとしか思っていなかったから、いっている意味がまったく解らないと執事長に噛みついていた。
「セバス、僕は本気だよ。だって、僕が雪梅に飽きたときは僕が雪梅に殺されるときだって知ってるでしょう?」
ほら、僕の屍を抱く義兄さんを想像してみて?物凄くアブノーマルでイカれていると思わない?
屍姦という性癖がないとそう簡単には抱けないだろうと僕がいうと、藤梅は目の色を変えて僕に詰め寄ってきた。たぶん、そういう性癖を身につける気でいるのだろう。
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