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ⅩⅢ

  「雪梅、物凄く美味しそうだったね♪」 雪梅にそういう僕は、物凄くご機嫌で水族館というモノを隅々まで堪能して、イルカショーというモノに興奮していた。そう、飼育員に忠実なイルカの姿はまるで僕のようで、瞳をランランに輝かせていたのだった。 たぶん、僕もあのイルカの真似をするのと雪梅にごねなかったら普通のデートだったかもしれない。だけど、僕は未だにアンアンしよう♪と強張っていなかった。 だからだろうか?顔がどんどん曇る執事長は肩を大きく落として元気がなかったのは。雪梅はくるくると変わる僕の表情が愛らしいと写真を撮るのに、大忙しだったけど。 「どうしたの?セバス、お腹すいた?」 元気がないのは僕と雪梅のアンアンを収めれないことにだけど、僕はそういって少しでも執事長の頭からセックスを引き剥がそうと試みる。だけど、僕の肩口に手をおいて、執事長はこういうのだ。 「黎様、私はもう限界です!早く、雪梅様とアンアンしてひいひいと哭いてください!!」 と。いまにも泣きそうな執事長のその顔は僕の心に届くことはなく、「セバス、ソレはできないよ。今日はアンアンデートじゃないから」解るよね?と慰める言葉をかけもせず、僕は僕の意志を貫く発言を返した。 執事長は「ですよね」とおいおいと泣きながら、食事の手配をしてきますと力なく僕から離れる。通常の僕だったら仕方がないと溜め息をつきながらも執事長の望みを聞いてあげたかもしれないけど、いまの僕は通常の僕ではないからとぼとぼと離れていく執事長をみ送るだけだった。 「ん?れい?」 キスでもするかい?と沈む執事長を後ろ姿を眺めている僕に雪梅はそういうけど、執事長の耳がピクリと動いたから、僕はこう返した。 「うんうん、お楽しみはあとにとっておく。雪梅はそういうタイプでしょう?」 そう返すと急に執事長の足が機敏に動きだす。なんだか嫌な予感はしたけど、執事長が元気になったから僕はよしとした。だけど、今度は雪梅の方がしゅんとなって、「れいは、私とキスをしたくないのかい?」とまで訊いてくる。 「ん?どうしたの?いつもだったらお楽しみはあとでしょう?っていうじゃない?」 僕の方がどうしたの?と聞きたいよ?と答えると雪梅は押し黙るように口を紡いでしまった。理由は解っている。堪え性のない僕がねだってねだってねだり倒してまで、雪梅にキスを求めてくるのに今日に限って僕はソレをしない。なんたって、雪梅とキスをしなくとも雪梅とアンアンをしなくもと物凄く気分がよく、心が雪梅で満ち溢れているのだ。 満たされず不安でない以上、僕は雪梅を求める必要はないし、天夢や結羽がいっていたデートというヤツをとことん楽しみたい。ソレに、僕だって四六時中雪梅とアンアンしてんじゃないよ、というのも彼らに証明したいのだ。そう、飛行機の中で天夢にいわれたことを僕は気にしていた。 さて、ソレはともかく、僕は落ち込む雪梅に「今夜の夜のお勤めにいっぱいサービスするから雪梅もいっぱい僕にサービスしてよ」とイルカが飼育員にご褒美でたくさんの鰯を貰っているところを指差していったら、雪梅は「ああ、れいはあの子たちのように私にいっぱいご褒美を貰いたいんだね♪」と直ぐに機嫌を直して、「いっぱい我慢して、いっぱい私の愛を受け止めて♪」と僕の髪を鋤いた。 全身に電気が走ったようなびりびりとした痛みが走って、僕は息を呑む。いまさら、雪梅に恋するなんて思っていなかったから、ゆだりそうな熱い雪梅の視線に僕は胸がきゅんきゅんしてドキドキしてしまっていたのだ。そして、溜め息に近い吐息が漏れて喉奥を熱くさせる。そう、僕は僕を欲する雄の目に物凄く感じてしまって、今宵のお勤めが待ち遠しくなっていたのだった。 堪え性のない僕がこんなにも待つ楽しみをよいモノと思えているところが物凄く不思議で、そんな気分を気持ちよく思えて、ソレを存分に味わったとはいわない。また、雪梅の男前過ぎる仕草に鼻血を噴きだす寸前で、コレまたいまさらながら雪梅の男前度を急上昇させていたとはいっておこう。 「ふっふ、れいのその起伏の激しさは本当に解りやすくって本当に憂いにあたるモノですね」 雪梅はそういうのも解る気がする。いまの僕の顔は今夜、雪梅とヤりまくるよと書いてあったから。いまから楽しみだとも書いてあるらしく、食事の手配をしにいった執事長までもが物凄くウキウキ気分で後半の水族館デートは物凄く楽しいモノだった。  

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