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第5話

「遊木って、姉貴がいなくなってから誰かと付き合った?」 笑うのを止めて遊木がこっちをむく。 「あっ? まあ、いたよ。1年の女子と付き合ってた」 「ふーん」 「でも梨沙子が一番。あんなパワフルな女いない。」 それは俺に気を使っての言葉か、それとも本心か、どちらともとれた。 この一見クールでモテオーラを放つのに、話してみると気さくで付き合いやすい男に、俺の興味は一気に奪われた。 姉もそんなところに惹かれたのだろうか。 自分のなかで遊木が特別な位置にいるのに気付いた。 俺は友達が少ない。 興味がないうえ、作ろうとしない。 一人でも問題ないからだ。 唯一、仲の良かった橋村とはクラスが遠く離れあまり会わなくなっていた。 そんな俺が他人様に興味を持つことがめずらしかった。 「おまえは彼女作んないの?」 「いや、つーか、ほしいけど、無理」 なぜか遊木は俺に彼女がいないことを知っている。 まあ、ちょっと前まで根暗イメージの俺だからこそだと思うが。 今は身長も遊木と変わらないし髪だって染めて、ダサいメガネもやめた、俺の中では、そっち側の人間に近づいたつもりだ。 高2も終わりに近づくと高校生活に少しくらい女子と言う彩りがほしくなった。 遊木は「ふーん」と対して興味も無さそうに宙を見つめる。 何を思ったか、じろじろと俺の顔をうかがってくる。 「梨沙子とは似てないけど……かっこいいけどな、お前」 「あ?」 にやっと顎をあげバカにしたような態度で遊木に言われ、少し驚いた。 確かに顔は悪くはないと自分でも思っているが、よっぽどきれいな顔をしている奴に言われると腹が立つ。 遊木はバカにしたような顔さえドキッとくるほど様になっている。 付き合いやすい奴だな、そう認識してからも、教室ではお互いしゃべりかけたりしなかった。 やはり別世界の人間かと言ったらもう俺はそんなこと感じなくなっていた。 2年の冬になるといくら何でも屋上は寒いので遊木が姉と勝手に使っていた空き教室で会うようになっていた。 サボりがかぶってはしゃべるくらいの別段仲良いわけではなかったが、居心地の良さと小さな昂揚感を味わわせてくれる、特別なやつだった。 俺は教師の熱意も無下にたまにフケるという気楽な優等生になり、授業も教師も嫌ではなくなった。 秀才にメガネは付き物だ、と遊木が言うので、俺はめんどくさいコンタクトをやめて、前のダサいクロブチメガネに戻った。 メガネに戻ると何が良いのか女子に声をかけられた。 最初の頃はここ教えて、など可愛い女子に聞かれただけで有頂天になって俺のことを好きなんじゃないかと勘違いした。 実は人生で初めての告白をされたばかりだ。 その女の子は他校の生徒で、学校帰りに捕まった。 よく行くようになったコンビニで俺を見かけたらしい。 友達と二人で声をかけてきた女の子。 突然のことであまり内容は覚えていない。 自分が恋の対象になってることが不思議だった。 番号とメアドを教えてと言われたので、その場で教えた。 最近ではその女の子とLINEをしている。 ふと、遊木のスマホの番号を知りたいと思う。 そう、よく会うようになって1年近く経つのに、俺たちは連絡手段を知らない。 それなのによく会えるのは遊木が姉に『頼まれた』とおり、俺を見張っているからだった。 番号を聞き出そうと思う。 だけど、それには何か大きな理由がいるようで、いつも聞けない。 俺は女じゃないから、簡単に理由が見つからない。 遊木がスマホでしゃべっていたり、手早く操作しているのを見て、彼女かな、などと考えたり、あの細長い指でどんな文を作るんだろう、なんてことが気になるなんて口が裂けても言うつもりはない。 いっそ、遊木の方からいつもの軽いノリで聞いてきてくれたら良いのに、と恨みがましく思ってしまう。 もう俺は遊木の手元を盗み見るのが習慣になっている気がする。 速い指先からは何が綴られているのか見当もつかない。 多分わからないのに見るのは遊木の指の動きに見とれているだけだと思う。 絶対にばれないように、慎重に見ている。 ややこしい高すぎるプライドは俺を悩ませるばかりだ。

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