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きっと何か裏があるのだろう。 他に仲間がいて、どこか路地裏へ引き摺り込まれて、お金や銀行のカードをとられるかもしれない。 ガムを噛む松本に腕をとられて雑踏を足早に歩かされながらも私は警戒を怠らなかった。 いかがわしいホテルが軒を連ねる通りに出ると、キョロキョロとさらに用心深く辺りに気を配る。 目に写るのはカップルばかり。 だが、いつ凶器を持った若者が襲い掛かってくるかわかったものではない。 サーモンピンクのホテルに入った松本は慣れた風にパネルから部屋を選んでカードキーを取ると鞄を抱え込む私を鼻歌交じりに引っ張って通路を進んだ。 もしかしたら他の部屋に仲間が潜んでいるとか。 実は従業員がグルだとか。 「はい、到着」 とうとう部屋に着いた。 ガラス張りの浴室に平べったいベッド。 ヘッドボードにはティッシュとコンドームが置かれている。 派手な外見に反して中はシンプルな色遣いだ。 隠れようがない。 ああ、でもトイレにいる可能性も。 従業員なら前もって身を潜めていられる。 「ねぇ」 呼びかけられたので私は条件反射で振り返った。 松本は、すぐ背後にいた。 顔を近づけてきたかと思うとキスをされる。 「……」 「いやーさっきは笑っちゃいましたけど」 「え?」 「俺、真面目なリーマンって大好物で」 「……」 「舌なめずりしたいくらいに目がないっていうか」 仲間はいない。 恐らく従業員もいない。 この部屋には私達以外に誰もいない。 彼は本気で私と。

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