11 / 130
2-2
初めて訪れる界隈。
生活圏内で目にするものと大して変わらない街並み。
頭上には張り巡らされた電線と建物の看板。遥か遠くには細い三日月。
指定されたコンビニに入るとマンガ雑誌を立ち読みしていた松本はすぐ私に気がついた。
「こんばんは、久也さん」
ああ、白々しい。
私を脅迫しているくせに、そんな挨拶。
「急に何だ」
「え?」
「コンビニの地図を送りつけて、一方的に時間指定して。失礼だぞ」
「あはは、すみません。でも宝探しみたいで楽しかったでしょ?」
「そもそも私は君に携帯のメールアドレスを教えた覚えがないし、登録もしていなかったはずだが」
「ああ、それは、貴方が一眠りしてるときにポチポチって」
「……」
「あ、肉まん食べます?」
「いらない」
いらない、と言ったのに松本は肉まんを二つ買って、一つを私に寄越してきた。
熱い内に食べろと促されて、松本の後ろを歩きながら、肉まんを食べる。
結構おいしいな。
食べ歩きなんて初めて、おっと零しそうだ、早く食べてしまおう。
肉まんを丁度食べ終えた頃、松本は一軒のアパート前で立ち止まった。
「ここ、俺んちです」
は? 俺んち?
「どうぞ、遠慮しないで」
いや、遠慮も何も、別に行きたくないんだが。
しかし私は彼に弱みを握られている。
私は彼に従うしかないのだ。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!