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松本の住むワンルームはこざっぱりとしていた。
脱ぎ捨てられた服など見当たらず、片付いたテーブルの上には閉じられたノートパソコン、壁際のスチールベッドの上もそれなりに整えられている。
「意外と片付いているんだな」
「意外じゃないですよー、俺は綺麗好きなんです」
上着、かけますよ。
差し出された松本の手に渋々脱いだ背広を渡す。
彼はハンガーに丁寧にかけると窓際のカーテンレールにそれを引っ掛けた。
「じゃ、お茶淹れてください」
いきなりの指示に私はまごついた。
「喉、渇いたんで。お茶の淹れ方くらいわかりますよね?」
私はむっとした。
会社や家でもお茶くらい自分で淹れる。
私は一応松本を睨んでおき、仕切りのドアを開けて玄関すぐ手前の流し台へ移動した。
当然、初めての場所なので何がどこにあるのかわからない。
だが松本にわざわざ教えてもらうのも癪に障る。
部屋同様に片付けられたシンク上を見回した。
まず茶葉を探して……いや、先に湯を沸かしておこう。
ヤカンはどこだ、ああ、湯沸かし器があるんだな、ふむふむ。
妻もここに来たことがあるのだろうか。
こんな風に、松本のためにお茶を淹れてやったのだろうか。
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