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3_メリクリ
□ここから三人称になります■
「ねぇ、貴方、話があるの」
おもむろに妻から声をかけられた。
彼女の意味深な表情を前にし、久也は、居住まいを正してその唇から何が語られるのかと身構えた。
***
十一月に入って街はフライング気味にクリスマスモード。
至るところで飾り付けられたツリーが見受けられ、コンビニまで華やかに彩られて。
イベント事にあまり関心がない松本は普段なら素通りするタイプの人間だった。
だが今年は違った。
わざわざ足を止めて商業施設の広場に設置された巨大ツリーを見上げ、彼は、柄にもなく浮き足立つ心を実感した。
やばいな、顔、にやけそう。
俺、今、普通の表情でいられてるよな?
「なぁ、松本、週末って暇?」
昼休み、学食でナポリタンを食べていた松本は友達から合コンに誘われると首を左右に振った。
「何だよ、最近付き合い悪くない?」
「もしかして彼女できた?」
「いねーし、彼女なんて」
カノジョになんて一生できない。
あの人にはゴカテイというものがあるのだから。
まぁ、でも、それでもいい。
俺が愛人の立場にいるなんて何か笑えるけど。
「……何、ニヤニヤしてんだよ」
「……あ、俺、やっぱ笑ってた?」
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