21 / 130

3-5

食器同士の触れ合う些細な音色が静かな部屋に奏でられる。 「そろそろケーキ出しましょうか」 チキンは松本が買ってきたものを食べ、ケーキは久也が買ってきたものを開けることにした。 リボンと包装を解いて蓋を開くと苺のショートケーキが二つ。 「わ、おいしそう。俺の行った店はショートケーキ売り切れてたんです」 「コーヒー淹れようか」 「ワインでいいんじゃないですか? クリスマスっぽくて」 とりあえずキッチンの流しに片づけられるものを下げ、綺麗な取り皿にショートケーキが崩れないようそっと乗せて、久也の前に置いた。 「久也さん、甘いもの結構食べるんですか?」 「時々食べるかな。気分転換にチョコレートとか」 何て優しくて穏やかな時間だろう。 久也さんに会うまではそれはそれは邪な気持ちでいっぱいだったけれど、こうしてゆっくり一緒にご飯食べて、話をするのも、全然悪くない。 何だか本当の恋人同士みたい。 「俺もたまにシュークリームとか食べますよ」 ゆったりとした時間を満喫していた松本だが、ふと、彼は正面でケーキを食べる久也に釘づけとなった。 久也さんの口元に生クリームついてる。 彼の何気ない粗相を発見した瞬間、収まっていたはずの邪な気持ちがぶわりと松本の身の内で燃え広がった。 や、待て、落ち着け、俺。 こういう時間も悪くないなって、今さっき思ったばっかだろ。 発情期じゃないんだから、オトナな成人なんだから、せめてケーキを食べ終わるまでは。 「ひ、久也さん、生クリームが」 「ん?」 「ついてますよ、ここ」 松本は自分の口元を指し示して久也に生クリームがついている位置を教えた。 久也は赤面した。 手元の紙ナプキンで拭うかと思いきや、優艶なかたちをした親指でさっと取り除き、それをぱくっと口に。 「恥ずかしいな、子供みたいだ」 「……」 「柄にもなくはしゃいで……すまない」 え、久也さん、はしゃいでいたの? ていうか何で謝るの? 顔、そんなに真っ赤なのはどうして? ていうか、ぱくって。 「ひ、久也さん!」 「え、うわ、ちょっと、待っ……」 邪な気持ちに心身を支配された松本に「待て」の言葉は効力の欠片もなかったのだった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!