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6_出張旅行
「久也さん、浴衣、すごく似合ってます」
「え……そうか?」
「湯上がりで火照ってるでしょ? ほら、太腿とか出しちゃってください」
「こら、ちょっと」
「帯もとっちゃいましょう」
「こらっ」
「帯って便利ですね、ほら、こんな風に縛っちゃったりなんかして……」
「あ、恥ずかしい、こんなの……」
いやいやいや。
今回、温泉旅行じゃないし。
泊まる場所は味気ないビジネスだし。
ま、同じホテルの部屋は押さえてるけど、ね。
今回、複写業に勤める久也は集団面接の担当として出張に赴いていた。
近県にある国立大が有する講座の膨大なる研究資料を一週間かけてスキャンし、データ化するという仕事内容で、短期バイトを現地で前もって募集し、会社の機材など持ち込んで来月から取り掛かるらしい。
久也は朝一番の高速バスですでに向かっており、松本は午前中の必修講義に出席し、それから後を追うかたちで高速バスに乗った。
三時間ほど揺られて目的地に到着。
少な目の荷物を詰め込んだバックパックを背負って松本は初めての土地に降り立った。
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