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チェックインしたビジネスホテルは交通センターから近い市街地中心に位置していた。
カーテンを開けば雑然とした明るい街並みが見下ろせる。
ベッドが一室をほぼ占領する六階のシングルルーム。
松本は備え付けのポットでお茶を淹れ、ベッドに腰掛けると、ずずずっと啜った。
やばい。
想像していた以上に、猛烈に、浮かれている。
これで久也さんに会ったらどうなっちゃうんだろう、俺。
浮かれすぎて即勃起するかもしれない。
一度ヌいておこうかな……いやいや、何かもったいない、ここは我慢しよう。
前倒ししたクリスマスの時も楽しかったけれど、この感覚は抜群に飛び抜けている。
初めて訪れる場所で久也さんと一緒にいられるなんて。
何だよ、楽し過ぎるだろ、どうしよう、どうしよう。
松本はベッドに寝転がると、半端ない高揚感を少しでも沈めようとごろごろ身悶えてみた。
糊の利いたシーツがカサカサと音を立てる。
窓から見える青空を見上げて松本は思う。
ああ、早く会いたい、久也さん。
久也は今日の午後と明日いっぱいを面接に費やすという。
世知辛いこのご時世、応募者数は短期であるにも関わらず予想以上に多かったそうだ。
松本は待ち合わせの時間まで繁華街をぶらつき、暮れ行く雑踏を一人堪能した。
澄んでいるような、でもどこか埃っぽい、夕刻の冷たい風が頬を過ぎる。
休憩がてら馴染みのファーストフードショップでハンバーガーを食べ、ホットコーヒーを飲んだ。
茜色がすっかり宵の色合いに塗り潰されて街の明かりが際立ち始める頃、松本は店を出、ビジネスホテルに戻った。
フロント横のロビーへ視線を向ければ一人で寛ぐ客が何人か視界に入った。
皆、似たような会社員風のスーツ姿。
しかし瞬時に見分けた松本はその男の元へと歩み寄る。
「久也さん」
声をかけられて、広げていた新聞を下ろし、久也は松本を見上げた。
「こんばんは、久也さん」
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