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6-8
「ん、久也さん……はぁ……っ」
ベッドへ行く時間も惜しく二人は立ったままドア近くの壁際で。
松本はダウンを羽織ったまま、久也はコートを肘まで滑り落としただけで。
「ぁっぁっン……っ」
背中を壁に擦らせながら久也は喘ぐ。
剥き出しの片足を持ち上げて抱えられ、フロアを踏み締める片足に下肢の衣服を引っ掛けた状態で、松本に激しく突き揺さぶられて。
時に思い出したように唇を重ねては飢えたようなキスをどちらからともなく繰り返した。
「よすぎて……死んじゃいそうです、俺」
笑い声とも嬌声とも区別のつかない声色で松本は言う。
その表情は滾り続ける欲望に素直に彩られて、乱れていて、雄々しくもあって。
若い無邪気さを溢れさせることもあって。
久也はそんな松本に見惚れた。
「もっと……」
久也が両腕を回して抱き着いてくると、首筋に擦り寄り、薄い皮膚を啄ばんでくる。
汚れないよう、背広やシャツを大胆にたくし上げると、さらに腰を沈めてきた。
「んんぅっ」
「……久也さん、いい?」
「ぁ、いい……気持ちいい……っ」
「本当……? 嬉しいです……」
松本は久也を両足ごと抱え上げた。
壁と自身の体で細身の久也を挟み込み、荒々しく律動する。
「あ、うそ……っすごい、こんなの……っ」
「……落っこちないで……くださいねっ、俺にちゃんとしがみついてて……っ、久也さん」
靴下と革靴を履いたままの足が宙でがくがくと揺れた。
容赦ない揺さぶりに、片足に引っ掛かっていた衣服がフロアへと落ちる。
久也は松本の頭を力いっぱい抱き締めた。
「ぁ、ぁ、ぁ……いき、そぉ……」
唇を半開きにした久也が目を瞑る。
掠れた声音に煽られて松本もきつく目を閉じた。
「あ、俺も……」
がむしゃらに加速した末に、松本は、久也の中で陶然と極まった。
久也もすぐさま続いて……。
「あ、久也さ……っ」
「んんん!」
ビクビクと互いに肢体を痙攣させて真っ白な絶頂に意識を攫われる。
終盤は松本が久也の背を壁に打ちつけるかたちとなってしまい、騒音は、通路にも洩れたことだろう……。
「はぁっあ……はぁっ」
息を荒げながらも松本は抱えていた久也の両足をそっとフロアに下ろした。
「……あ……嘘だろう」
閉じていた目を物憂げに開いて、こちらも呼吸を上擦らせながら、久也は視界に飛び込んできたそれに真っ赤になる。
松本のダウンジャケットには久也の散らした白濁が……。
「ん……別にいいですよ、後で拭けば大丈夫だから」
「いや……だけど、ぁっんっ」
挿入したまま松本が俄かに動いたので久也は肩を竦めた。
「それより、久也さんのコートとか……大丈夫かな」
松本は久也のコートを完全に床へと滑り落とした。
ネクタイを外し、背広も、ワイシャツも、その場で脱がせる。
控え目な明かりに照らされた床に久也の服が散らばった。
「おい……一端、抜いてくれないか」
「え~」
「え~、じゃない……その、とりあえず、シャワーを浴びたいんだが」
「とりあえず一回ヌいたからお風呂ってことですか?」
「……言い方が下品だぞ」
「スミマセン」
じゃあ、久也さんの背中、洗ってあげますね。
「え?」
久也は思ってもいなかった松本の一言にその双眸をレンズ越しにパチパチ瞬かせた……。
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