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『明日の晩ご飯は俺が奢りますね』 一日目に居酒屋の支払いをもった久也に松本はそう言った。 夕刻、仕事を終えてホテルに戻ると、一先ず自分の部屋に書類などの荷物を置いて顔を洗い、六階のフロアへ向かう。 チャイムを鳴らすとドアはすぐに開かれた。 「久也さん」 上着とネクタイを取り去った、ワイシャツにスラックス姿の久也を松本は笑顔で出迎えた。 「今日も一日お疲れ様でした」 「お疲れ様。君は何をしていたんだい」 「んー特に何も」 「それは君らしいというか何というか」 自分がとったシングルルームと同じ内装の部屋は綺麗に片づけられていた。 ベッドの向かい側にある、テレビやお茶セットが置かれたテーブルにはファーストフードのロゴがついた紙袋二つ。 そんなことだろうと予想していた久也はつい微笑した。 「どうかしました?」 「いいや、別に」 「あ、飲み物、アイスコーヒーでよかったですか? バーガーはてりやきとフィッシュがありますけど」 「どちらでもいい、君は好きな方を食べたらいい。ありがとう、いただくよ」 久也は整然と設えられたベッドに腰掛けた。 部屋にはイスがなく、当然、松本も久也の隣に座る。 「……」 松本がやたら密着して隣に座ってきたので、久也は、横にずれた。 すると松本も横にずれて再び密着してきた。 文句を言いたげな表情で久也が見やれば松本は首を傾げた。 「どうかしました?」 「食べづらいだろう?」 「いーえ、全然。いただきまーす」 松本がすぐ真横でハンバーガーを食べ始める。 仕方ないなと、久也もフィッシュバーガーの包装を開いた。

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