51 / 130

7_迷走

久也さんと連絡がとれなくなった。 『向こうでのお仕事が一週間くらいなら、俺、また行っちゃおうかな』 『だめだ』 『え~』 『君がいると連日仕事に支障を来たすに違いないから』 帰ってきたら連絡するから。 久也さんはそう言った。 だから俺は連絡を待っていた。 待って、半月、経過して。 久也さんからの連絡が一向になく「そっちでの作業、長引いてるんですか?」とメールを送ってみたのだが。 それに対する返事も来ない。 久也さんと連絡がとれなくなった。 あれ、これって、もしかすると、あれ? し ぜ ん し ょ う め つ ……ってやつ? いやいやいやいや。 俺、メールしたし。 それに返事が来ないだけだし。 「それもそれで大問題だろ」 行きつけのファーストフードショップで松本は思わず一人呟いた。 おかげで勉強もろくに身が入らない。 レポートの文章は接続詞で中断、一読しておかなければならないテキストに挟まれた栞は依然として冒頭止まり。 むしゃむしゃとポテトを食べていたら、ビジネスホテルで、久也と食べ合いっこしたのを思い出した。 『ん……もっと……』 あの時の久也さん、エロかったな。 やっぱり仕事が長引いてるのかな。 一言のメールもできないくらい大忙しとか。 もしかして事故で入院したとか。 いや、それでもメールは可能だろ? まさか大怪我で指一本動かせないとか……。 お れ じ ゅ う し ょ う 騒がしい店内の片隅で俯いた松本はこっそり苦笑を噛み殺す。 自然消滅、これまで自分の常套手段だったくせに。 ツケが回ってきたかんじ。 アパートに帰宅した松本は風呂に入る気にもなれずにベッドにぼふんと仰向けに倒れ込んだ。 「久也さーん」 俺、何かしちゃったかな。 知らず知らず傷つけちゃったかな。 だとしたら、ごめんね。 それならちゃんと謝りたいです。 わんわんわん!! そうそう、わんわんって、久也さんに乗っかって……。 「犬、うるさ……」 ここ最近アパートお向かいの一戸建て飼い犬がよく吠えている。 発情期なのかな。 そういえば、久也さんによく「年中発情期だな」みたいなこと言われたっけ。 ええ、そうですよ、その通りです。 交尾、好きなんです。 久也さんとの交尾、大好きです。 首輪つけて、リードつけて、久也さんの所有物にしてもらってもいいくらい。 本当に犬になれたら久也さんのそばにずっといられる。 わんわんわん!! い ぬ に な り た い 「久也さん、好きです」 寝返りを打った松本は冷たいシーツに行き場のない熱をこめて囁いた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!