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「最近さぁ、ぜんぜん会えないし、連絡とりづらくて」
「忙しいんじゃない? 社会人でしょ?」
「んー。でもさ、メールの返事もないって、どういうこと?」
「電話は?」
「今、忙しいからって、切られるか、留守電」
切られるか、留守電。
それ、結構、堪えません?
講義中、背後で交わされる女子同士の会話に松本は興味津々、講師の説明など聞き流してそっちに耳を傾けていた。
電話はまだしていなかった。
日頃、久也自身メールはあまり使用せず、電話で用を済ませる人間だったので、その方が手っ取り早いのかもしれない。
だけど怖くてできなかった。
たとえば、もしも。
もう連絡しないでほしい。
そう、久也さんの声で伝えられでもしたら。
俺、ショックでインポになるかもしれない。
「松本、週末、合コンどう?」
「相手、看護学科よ」
「ん……パス」
「んだよ、相変わらず付き合い悪いな」
「やっぱ彼女できた?」
学食でナポリタンを食べていた松本は首を左右に振る。
フォークに雑にスパゲティを絡ませて頬張る。
メールや電話じゃなく、直接、久也さんのマンションへ出向くという手もありはする。
だけど、それも、怖くてできなかった。
たとえば、もしも。
あの韓流好きで鎖骨下に黒子のある奥さんと、久也さんが、仲良く腕でも組んで歩いているのを見かけでもしたら。
俺、ショックでインポになるかもしれない。
てかさ、ストーカーだろ、そんなの。
だめだ、それだけはやめよう。
電柱の裏にこっそり隠れて、今か今かと帰ってくるの、待ったりとか。
素知らぬ風を装って生活圏内をぐるぐるうろついたりとか。
……なにこの明確なビジョン。
すぐにでも実行に移せますよ? みたいな現実味ありすぎる選択肢は……。
柄じゃないって。
久也さんのこと大好きだけど、俺のキャラにないよ、ストーカーなんて。
「……何、ストーカーって?」
「……あ、俺、声に出してた?」
「……松本、それ、パスタ巻きすぎじゃね?」
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