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松本はぴたりと立ち止まった。
「よしよし」
アパートの向かいにある一戸建ての前に久也がいた。
柵越しにそこの飼い犬を撫でている。
「久也さん」
松本の呼び声は耳に届いたようだ。
中腰になっていた彼は姿勢を正し、白い息を舞い上がらせて振り返った。
「やぁ、こんばんは」
「あ……こんばんは」
あまりにも普通に、自然に挨拶されて、松本も至って同様の挨拶を返す。
外灯に照らされた道を渡ってお向かいさんの前に立つ久也の前へ行き着く。
「この子、やっと懐いてくれたよ」
「え?」
「吠えられてばかりで、でも今日やっと、打ち解けてくれた」
そう言って、久也は、嬉しそうに笑った。
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