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君が泣くと、悲しげだと、同じ気持ちになったんだ。 感情が同調を始めるようになった。 つらくてね。 つらくて、つらくて、どうしていいのかわからなくて。 君から離れたいと思った。 だけど足は君のアパートを目指すんだ。 矛盾してるだろう? 心が二つに割れたみたいだった。 「冷たいよ、久也さん」 エアコンをつけっぱなしにしていたアパートへ戻ると凍えた久也をベッドに座らせて、松本は、その手をずっと握っていた。 床に跪いて彼の膝に抱きつくようにして。 なかなか暖まらない手を両手で撫で擦っていた。 「そんな、大袈裟だぞ、凍傷したみたいに」 「だってすごく冷たいです」 「君の手は暖かいな」 コートもマフラーも身につけたままの久也は自分の膝にうつ伏せる松本の無防備な頭に告白した。 「君のことが好きだ」 今頃、何をしているんだろうと、そればかり思っていた。 会いたいのに、会うのが怖くて、あんなところで立ち往生して。 寒いし、あの子に吠えられたし、通り過ぎる人に見られた。 さぞみっともなかっただろうな。 「あんなことをしたのは初めてだよ」 「勝手ですね、久也さん」 「うん?」 松本は一向に温もらない久也の手に頬擦りした。 「俺がどれだけ傷ついたか、わかってます?」 そのまま久也の背中をベッドに沈め、すぐ隣に自分も横向きに寝そべる。 眼鏡がずれた久也は手を伸ばすと松本の乱れた髪を撫でた。 「うん、すまなかった」 「軽」 「軽い? 困ったな、土下座すればいいのか?」 「それ、開き直ってません?」 かじかむ指が奏でる愛撫に松本は満足そうに喉を鳴らす。 「猫みたいだ」 「いーえ、犬です」 「犬なのかい?」 「久也さんの飼い犬になりたいって、俺、思ってました」 両足を床に投げ出したままベッドの上で横向きに顔を合わせ、繋げた視線に微熱を添わせる。 「犬はごろごろ言わないぞ」 ずっと優しく微笑んでいる久也の懐に松本は潜り込んだ。 「これ、犬っぽいでしょう」 「そうだな」 久也は抱きついてきた松本の髪を五指で梳いてやった。 肌に伝わる些細な感触がとても心地いい。 鼻先をコートの合わせ目に埋めて、松本は、深く息を吸い込んだ。 「いい匂い」 顔を上げれば、すぐそこに、いとしい眼差し。 首を反らすと、久也から、キスをしてくれた。 「もっとほしいです」 すぐに久也が離れたので、素直におねだりすると、今度は額にしてくれた。 「もっと」 次は瞼に。 左の瞼にも。 そして、また、唇に。 「俺のこと好きですか?」 松本の問いかけに久也は答える。 「好きだ」

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