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「久也さん」 ビードロの置物を眺めていた久也はくるりと振り返った。 「なんだい」 昼下がりの穏やかな日差しに一瞬、眼鏡の奥できゅっと瞬きし、片手を翳して、久也は松本を見る。 「……なんでもないです」 「ほら、可愛いな、イルカの親子だ」 「スナメリですか」 「そうそう。よく知ってるな」 綺麗に光り輝く小さなイルカの置物を指先で撫でて、久也は、小さく笑った。 「向こうに足湯があるみたいだ」 久也さん、はしゃいでる。 すごくとてもかなり可愛い。 それに、さっきの、聞いた? イルカの親子、だって。 なにそれ、言うこともいちいち可愛いんですけど。 ああ、だめだ、笑いそう。 今すぐ大声で笑いたい。 幸せすぎてどうにかなりそう。 「あははははっ」 「な、なんだ、急にどうした」 「なんでもないです」 そんな会話をしている内に足湯広場に着いた。 東屋風の作りとなっていて、浅い石風呂の中でお湯がゆらゆらと波打っている。 丁度外国人の観光客が上がるところで、彼らと入れ代わるように、松本はスニーカーと靴下をさっと脱ぐと、デニムを無理矢理曲げて足先を浸した。 「あ、結構熱いです」 一方、久也はわざわざ革靴を揃えて置き、靴下をきちんと重ね、スラックスをくるくるとたくし上げている。 コートが濡れないよう、松本の隣に行儀よく座ると、白い足先をお湯の中に沈めた。 「あ……」 ほわんと綻ぶ表情。 思わず洩れた吐息。 「ふぅ」 熱い湯に温められてじんわり広がる心地よさに満足そうに息をつく。 すぐ隣でそんな久也のリラックス感を間近にし、松本は、思う。 今の、エロ過ぎない? なんか、いっちゃう時とちょっと似てたんですけど。 松本は湯の下でぼやける白い足先に、自分の足を、近づけてみた。 ちょんと足の甲に触れてみる。 久也はくすぐったそうに笑うだけ。 図に乗った松本は、足指に絡ませるように、自分の足指を上から……。 ばしゃんっ 「こ……こら!」 今のはNGだったらしい。

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