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一泊目の旅館にチェックインし、落ち着いた雰囲気のロビーでウェルカムドリンクの柚子蜜茶を飲んで、部屋に案内してもらう。 ベッドがある和洋室はネットでチェックしたときよりも広く見えた。 館内の簡単な説明をし、夕食朝食の時間や場所、お風呂の入浴時間はいつまでなどとすらすら述べ、着物を着たスタッフは笑顔で退室していった。 い草の香りが清涼感を醸し出している。 和室と隣り合わせのベッドルームにはふかふかのベッドが二台。 どうしてもエロいことしか考えられない。 ちらりと窺ってみると、久也は窓から外の景色を眺めていた。 木製の座椅子に座っていた松本は腰を上げた。 「……」 背後から久也をぎゅっと抱き締めて首筋越しに外を見下ろしてみる。 夕日に染まり始めた、湯煙の立ち上る旅館街一帯が見渡せた。 「綺麗ですね」 「そうだな」 キスしたいな、と松本は思った。 だけど、今キスをしたら、多分、最後までいってしまうだろう。 だめだめだめ。 お楽しみはとっておかなくちゃ。 久也の出張に付き添って、同じビジネスホテルに二泊して。 あれ以来、松本と久也は体を重ねていない。 付け足すならば、この旅行のために有給休暇をとった久也は仕事の整理をつけるため毎日遅くまで残業し、実は、松本のアパートで告白してから今朝空港で落ち合うまで逢瀬すらしていなかった。 こんなに禁欲生活を強いられるなんて思ってもいなかったけれど。 その分、いっぱい愛しちゃいますからね、久也さん? 急にくるりと久也が振り返ったので、自分で抱き着いておきながら松本はどきっとした。 「夕食前に、よかったら、お風呂に行かないかい」 「あ、そうですね」 「じゃあ、ここで一先ず着替えておこうかな」 きたぁぁぁぁぁあ。 久也さんの浴衣姿、とうとう、お披露目きますよ、これ。 「……どうした、急に鼻息が荒くなったぞ」 「気のせいです」 「君は着替えないのかい」 「俺はジーンズとトレーナーだし、このままでいいです」 「ふぅん……」 久也はクローゼットに入っていた服をとると、わざわざ脱衣室へと移動していった。 座椅子に座った松本は落ち着きなくお茶を淹れたり、観光のチラシを手にとっては置いたり、テレビを点けては消したり。 仕舞いには貧乏揺すりまで始めた。 とうとうこの時がきちゃったよ、夢にまで見た、妄想までした久也さんの浴衣姿が、今、ここで実現されちゃうんだ、うわ、どうしよう、ああもう、こうなったら動画で撮影しとくか? 「ス、スマホ……」 隅に置いていたバックパックをごそごそしていたら襖がすらりと開かれた。 「じゃあ行こうか」 作務衣姿の久也がそこにはいた。

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