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かぽーん…… 平日で六時前の大浴場はがらがらだった。 松本と久也、そして小学生らしき男の子が一人だけという、なんとも贅沢な状況にあった。 まさかの作務衣姿に密かにしょ気ていた松本だったが、竹細工の柵に囲まれた露天風呂に久也と浸かっていたら、すぐに気持ちはころっと浮上した。 すでに全身を洗い終えた久也は髪を撫でつけ、相変わらず眼鏡をかけていた。 髪の一本一本がしっとりと雫を含んでいて、唇が、いつもより赤く見える。 視線を落とせば胸に咲く二つの薄ピンク色。 こちらもいつもより、おいしそ……色味が際立って見えた。 かぽーん…… 「いい湯だな」 暮れ始めた空を見上げて久也が微笑交じりにぽつりと言う。 満ち足りた綺麗な横顔に松本は見惚れた。 これって実は夢なんじゃないだろうか。 夢ならずっとこのままで、神様。 だけど、これは今、目の前に横たわる現実。 確かに手にしている本物の幸せ。 ……せめてキスくらいいいかな。 自分を焦らすのにいい加減飽きてきた松本は、完全無防備な久也に、キスしようと……。 がらがらがら~ 仕切りのガラス戸が開かれて男子児童が露天風呂に悪びれるでもなく入ってきた。 「こんばんは」 久也がにこやかに声をかけると丁寧に返事をしてくる。 松本は、また、密かにしょ気た……。 夕食は個室会場でメインが釜飯の季節コースだった。 まぁ作務衣も悪くないかな、と思いながら松本は久也と向かい合って適度なお酒と食事を楽しむ。 「柚子蜜カクテル、ちょっと飲みますか?」 「甘いんだろう?」 「おいしいですよ?」 「じゃあ、ちょっとだけ」 爽やかな色をしたカクテルを一口飲んだ久也は「甘い」と苦いものを食べたような顔をした。 「あれ、でも、チョコレートとか食べるんですよね?」 久也は箸を止めて「よく覚えているな」と苦笑する。 「お酒は別だよ。甘いのは得意じゃない。梅酒もあまり飲めないし……」 藍染の作務衣が実はよく似合う久也は柚子蜜カクテルをおいしそうに飲む松本に「君はたまにシュークリームを食べるんだったな」と、擬似クリスマスでの食卓を思い出し、ふっと笑った……。

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