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さてと、夜になりましたね。 ところでこの状況は一体全体どうしたことでしょうね、久也さん? スー……スー…… 松本が歯磨きをしに脱衣所へ立ち、戻ってくる、そのたった数分の間の出来事だった。 久也はベッドで熟睡していた。 布団も被らずに横向きになって、ちょっと体を丸くして、完全に寝入っていた。 しょ気るどころか呆然。 松本は和室と洋室の境目でショックの余りしばし硬直していた。 空調の振動音が静寂にか細く響いている。 ちょっと項垂れた松本は乾いた髪を弄ると、息をつき、久也が眠るベッドの傍らに腰を下ろした。 鼻先にずれていた眼鏡を、そっと、起こさないよう気をつけて外し、ベッドの間にあるサイドボードに置く。 久也は身じろぎ一つせずにぐっすりと眠ったままだ。 足元に追いやられていた布団を肩までかけてやると、僅かに睫毛を震わせたが、目覚める気配はなかった。 旅行のため、残業こなして、疲れてたんだね。 明日、今日より楽しい一日にしようね、久也さん。 「おやすみなさい」 松本は眠る久也にそう囁いて額にキスをした。

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