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適当な食事処で昼食を食べて休憩してから、観光のメインスポットである地獄地帯へ行ってみた。
硫黄の匂いが殊更強い。
剥き出しの岩肌の至るところから蒸気が噴き上がっている。
久也が興味深そうにロープの張られた立ち入り禁止区域を背伸びして眺めていたら、わざわざ松本が片腕をとって、踏み外さないよう支えてきた。
「なんだ、人を子供みたいに」
「だめ、危ないよ、兄さん」
それ、まだ続けるのか。
「兄さん、革靴だし。滑りやすいでしょ」
「そうかな」
「俺、おんぶしようか?」
「し、しなくていい」
地獄地帯を経路に沿って一周し終えると、次は、隣接するワニ地獄ことワニ園に行ってみた。
そこでは数え切れないくらいのワニが飼育されていた。
「ワニワニパニックだったらどれくらいかかるかな」
「わにわにぱ……?」
「ワニの頭を叩くゲームです」
世の中には怖いゲームがあるものだ……。
手摺りが張り巡らされ、その下でワニがうじゃうじゃと蠢く池を見下ろして、久也は背筋を粟立たせた。
「ねぇ、兄さん、もしもこれが文学の世界だったら」
突然、何を言い出すのだろうと、久也は隣の松本を繁々と見上げた。
「俺と兄さんは一緒にこの池に身を投げるのかな」
文学作品にしてはなんとも突飛で残忍すぎる発想だが、方向的には、そうかもしれない。
「こんな地獄には堕ちたくないな」
「そうだね、でも、俺は」
兄さんのいない天国より、兄さんと一緒にいられる地獄の方がいいです。
松本はしれっとそんなことを言った。
思わず赤面した久也は慌てて顔を逸らす。
二人が言葉少なめに佇んでいたら向かい側で飼育員による餌やりが始まった。
するとそれまで気怠げにしていたワニ達が獰猛な本性を。
投げ込まれた肉塊に飛びついて喰らうのもいれば、群がり、猛然と餌を奪い合うワニ達……。
「まぁ、一番いいのは兄さんと一緒に天国に行くことかな」
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