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久也とは先週会ったばかりだった。 それなのにこの胸の高鳴りは何だろう。 桜満開の花見スポット、とにかくどこもかしこも人だらけ、そんな中で手にした、ちょっとした奇跡に感激してしまう。 久し振りというわけじゃない。 懐かしいわけじゃない。 だけど、いつもより色鮮やかに視界に写るような気がしますよ、久也さん……。 にしてもさぁ、意外と女子、職場に多いんですね。 「それ、もう空じゃないですか? これ、どうぞ」 「ああ、ありがとう」 久也のところには三人、二十代後半から三十代前半と見られる女性がいた。 久也さんの部下……になるのかな。 複写業の会社で主任だったっけ。 隣にいる中年は上司っぽいな、係長とか、かな? 既婚者で真面目な綺麗系の久也さんが職場で不人気なわけがない。 バレンタインデー、絶対、チョコレートもらったんだろうな。 お返しだって、奥さんに頼むんじゃなくて、自分でちゃんと買ってそう。 いいなぁ、俺も久也さんと働きたい……。 マスクを顎の下に追いやった松本は自分達より年齢層高めの久也ご一行を興味津々に眺める。 久也さん、人の多い場所が苦手だって言ってたよな。 今日は付き合いのために来てるのかな……。 「まづもど君、隣、見てるの?」 松本はやっと、ペイズリー柄のワンピースを着ている女の子の顔をまともに見た。 「もしかしてあっちにタイプの人がいるとか?」 「あ~まづもど君のタイプ知りたい! どれどれ!?」 「あ! 俺も松本のタイプ知りたい!!」 酔っ払い共がより騒ぎ出す。 それなりに盛り上がっていた隣のご一行がちらっと視線を向けてきた。 缶ビールに口をつけようとしていた久也も、自然な動作で、はしゃぐ若者達にちらりと目をやって。 顎下にマスクを追いやった松本を見つけるなり、中途半端な姿勢で、固まった。 ……あ、気づいた。 久也さーん、こんばんは。 こんな偶然ってあるんですね。 見知った友達と未だに名前を把握しきれていない女子に囲まれながら、松本は、硬直している久也にアイコンタクトしてみせる。 「あ! 誰かに目配せした!」 「え~どの人?」 「あ、何かあの人、かっこいい」 「眼鏡してる人でしょっ私も思った~」 明らかに久也のことである。 松本はから揚げを食べながら、内心、女子の会話に混ざりたい、と思った。 わかるわかる。 頬をほんのり上気させて、濡れた唇が色っぽい、仕事終わりで眼差しにちょっと疲労感引き摺ってる、あの人でしょ。 俺もいいなぁって思った、ていうか、奥さんの携帯に保存されてた写真見たときから、思ってたんだって! あの人がネクタイをしゅるって外す瞬間、堪んないよ? まぁ、俺が外しちゃうケースの方が多いんだけどね。 至るところで繰り広げられているどんちゃん騒ぎのおかげで、たとえ隣同士であろうと通常トーンで交わされる会話は双方聞こえない。 自分が話題に上がっているとも知らずに、久也はしばし若者グループの中心にいる松本を眺めていたが。 ふいっとその視線を松本から断ち切った。 どこか他人行儀というか。 松本の視線を振り切るような仕草だった。

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