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11_えへんむし

すみません 具合わるくて 今日むりどす 本当ごめんなさい たったそれだけの文章(しかもミスあり)を打つのに五分以上はかかった。 ベッドの中でメールを送信すると枕にしがみついて松本は呻く。 「久也さん、会いたかったなぁ」 こぼれ落ちた声はガラガラ。 今日一度も窓を開けていない部屋の中は空気が篭もっていて、珍しく雑然としていて、何となく辛気臭い。 花粉症がやっと治まってきた矢先、松本は風邪を引き、昨晩から熱を出していた。 大学の講義も休んで朝からずっとベッドで丸まっている。 何か食べなければと思うが、食欲がなく、薬を飲まなければと思うが、常備薬など揃えておらず。 起きてからコップ一杯の水しか口にしていない松本は咳き込んだ。 昼下がりのシンとした部屋にやけに響いた自分の咳に、なんだか、泣けてきた。 もしもこのまま死んだらどうしよう。 体調は最悪でマイナス気味の思考に偏った松本は、一人、落ち込む。 しょうもないと思いながらも、スマホに保存している久也の画像集を毛布に包まって眺め、わけもなく募る不安をやり過ごした。 いつの間にか寝ていたようだ。 目覚めるなり、また咳をして、また物寂しくなり、松本は枕元に転がっていたスマホを覗き込もうとする。 チャイムが鳴っている。 当然、出る気がまるでない松本は無視を決め込む。 ああ、これ、温泉の時のだ。 隠し撮りした浴衣久也さん。 おいしそうだなぁ。 チャイムがやんだ。 毛布に包まり直した松本はふやけた思考でありながらも画像を次々とスライドさせる。 その時。 スマホに着信がかかった。 びっくりした松本は表示された名前にぱちぱち瞬きする。 「久也さん……」 耳に押し当てると愛しい声が鼓膜に流れ込んできた。 『今、部屋の前に来ているんだが』

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