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「これは一体何だ」
ほろ酔いで上機嫌だったはずの久也は「それ」を差し出されるや否や一変した。
眉根を寄せ、理解不能という厳しい顔つきで、松本と「それ」を交互に何度も見比べた。
あ、やっぱり、そういう反応ですよねー。
粗方予想はついていた松本だが、ついさっきまで機嫌が良さそうだったのが、こうも瞬時に不機嫌になられると正直尻込みしそうになった。
いやいや、だめだめ、妄想を現実にするためにも、俺、挫けませんよ。
久也が手にしているのは新品のガーターストッキングだった。
かたかたと小刻みに震えているのはガーターストッキングではなく、手にしている久也自身だ、当たり前だが。
「えっと、あのですね」
「まさか私に履いてほしいと?」
さすが久也さん、察しがいいですね。
「……じょ、冗談じゃない」
期待に満ちた眼差しで松本に見つめられて久也はさらに震え出す。
「無理だ無理だ無理だ無理だ」と、まるでお経さながらに唱えると松本をじとっと見返してきた。
「似合うと思うんですけどね」
「どこがだ、その根拠は一体どこからきている」
「えーだって色白いし、細身ですし?」
「無理だ」
「そんな突っ撥ねないでください」
久也とベッドに並んで腰掛けていた松本は強張る顔を覗き込む。
「大学の帰りに女子に混じって買ってきたんですよ? どれが久也さんに似合うかな~って」
「どれも似合うわけがない」
「どれだって似合いますよ。でもやっぱり、俺的には黒がいいかな~とか思ったりして」
「黒は持ち物に多いが、これは、べべべ別次元だ」
「久也さんの白い肌に映えますよ、絶対。ね?」
「ね? と言われても困る」
新品でまだパッケージから取り出されていない商品を握り締めて久也は低い声を絞り出す。
松本は肩を竦めてみせた。
「ね、久也さんが俺のこと避けてた時期、あったでしょ?」
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