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「松本~腹痛いよ~」
「俺も痛い」
「そうだよな~受付よりそっちの方が大変だもんな、そりゃ緊張しちゃうよな~」
何も胃に入れる気になれずに松本はコーヒーをがぶ飲みする。
スーツを着るのは成人式以来、せっかくの晴れ着を台無しにする顔色の悪さに我ながら失笑してしまう。
俺ってどんだけプレッシャーに弱いんだよ。
たった三分足らずだろ、みんな酒飲んで、ろくに聞いてないって。
誰かが連れてきた小さい子とかが泣いたりするかもしれないし、ちょっとしたミスとか、誤魔化せるって。
ああ、会いたいよ、久也さん。
こんなしょうもない俺を叱って勇気づけてください。
「松本~そろそろ行く?」
早めに会場に到着していなければならない阿久津と共に、松本は、ファミレスを出た。
梅雨の最中、幸運にも晴れ渡った空。
アスファルトに容赦なく降り注ぐきつい日差し。
蒸し暑い。
正午過ぎの直射日光に松本はため息をつく。
「あ~もしもし?」
隣を歩く阿久津がかかってきた電話に出ているのを見、自分も、スマホを取り出してみる。
今日は土曜日。
多分、仕事中で出られない。
久也さんのことだから、食事するだけの昼休憩をささっと終わらせて、もうデスクに戻っている……。
そうとわかっていても、松本は、電話をかけずにはいられなかった。
「え~そうだったっけ? 俺、聞いてないよ~」
隣で阿久津が何やら揉めている。
頼むからあまり不安要素を掻き立てないでくれ、阿久津……。
松本は手の甲で目元に日影をつくった。
鳴り続ける呼び出し音。
電源落ちが気になるところだ。
正面に迫る横断歩道が視界に入り、あそこに着くまで待ってみようと、松本は決めた。
すると。
「もしもし?」
今、一番聞きたかった声が鼓膜に流れ込んできた。
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