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あれは彼が体調を崩したときだった。
「そろそろ終電の時間だ」
そう言うと、彼は毛布にすっぽりと頭を隠し、不貞寝してしまった。
いつになく子供っぽい振舞だった。
体調不良のせいで心身ともに弱っていたのだろう。
気にはなったが、家に帰らなければならないので、そのままアパートを後にした。
肌寒い四月の夜だった。
彼の住むアパートを背にして駅へと向かった。
お向かいの犬を撫で、コンビニを通り過ぎ、帰宅途中の通行人と擦れ違い。
ここ数ヶ月の間に慣れ親しんだ駅が視界に入った。
両足が前に進まなくなった。
その場で立ち止まり、近くの踏切が警報音を鳴らすのをぼんやりと聞き流して。
回れ右をすると来た道を引き返した。
途中、仕事が片付かないから職場に泊まると、家に連絡を入れた。
眠たそうな声の返事を聞き届け、向こうが通話を切ると、携帯を仕舞った。
ドアはロックされていなかった。
音が響かないよう注意して中に上がった。
私が部屋を出たときと全く変わらない状態の彼がそこにいた。
毛布をすっぽりとかぶってじっとしている。
ベッドの端にそっと腰掛け、毛布越しに、彼の頭を撫でてみた。
「……久也さん?」
寝返りを打った彼は毛布から顔を覗かせてうっすら目を開けた。
ああ、離れられない。
彼がそばにいない夜のつらさに心が押し潰される。
彼がそばにいる夜の温もりに、心が、満たされる……。
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