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貧血で倒れたなんて、全然、思い出せない。 阿久津はどうしたんだろう、あいつが救急車を呼んでくれたのかな? スピーチはどうなったんだろう、阿久津が代わりにやってくれたかな? ……ちょっと待てよ。 やっぱりおかしくない? 「久也さん、なんでここにいるの?」 倦怠感で全身ぐにゃりとしている松本は、相変わらず眼球だけをきょろきょろ動かして頭上の久也を見上げた。 「私と通話中に君は倒れたんだ」 「……あ、そういえば……」 「あのとき、すぐ付近で交通事故があったそうなんだ」 「???」 「そうか。私はリアルタイムでその衝撃音を君との通話中に聞いてね」 てっきり君が事故に巻き込まれたのかと思って。 電話も全く繋がらないから。 ここまで来たんだよ。 「……え? え?」 「丁度、昼休憩で外に出ていたんだが、その足で高速バスのチケットをとって飛び乗った。会社にはさっき電話を入れたよ」 驚かされっぱなしの松本、その額を労わるように撫で続ける久也。 程よい空調に保たれた個室の外ではスリッパの足音や話し声、ストレッチャーの移動する音が響いていた。 松本が運び込まれたこの病院を久也はどうやって特定したのか。 ゴールデンウィーク中、久也は松本のアパートで本日開かれる結婚式の招待状を目にしていた。 そこには当然会場となるホテルの名称や住所も載っていた。 久也はそれを断片的に覚えていたのだ。 携帯で記憶していたワードを検索し、場所の目星がつくと、交通手段を調べて高速バスに乗り、車中ではとにかくホテル周辺にある病院の電話番号をメモしまくった。 高速バスを降りると即座に電話をかけまくった。 個人情報保護の元、当然ながら問い合わせは拒まれた。 次に久也が及んだのは、メモしていた救急病院の受付を一つずつ回るという、労力のかかる行いだった。 ホテルのすぐ近辺も通りがかり、約三時間前に交通事故が発生した現場をその目で確認して。 早足だった久也の歩調はそれから駆け足となった。 「四件目でここに来て」 「うん」 「どういう関係かと聞かれたから」 「うん?」 「恋人だと答えたよ」 冗談だろうと思い、松本は、小さく笑った。 糊のきいた布団の下に沈めていた腕を伸ばすと、額の汗を、手の甲で拭ってやる。 「ありがとう」 久也は松本の手を両手で握り締めた。 肌の熱を確かめるように、かけがえのないものであるかのように。 ぎゅっと力を込める。 「……名前、知ってたんですね」 松本の指先を額に押し当てて久也は頷いた。 「いつから知ってたの?」 「君がうちに泊まりに来たときだ」 「え……そんな前から?」 「君が寝ている間、財布に入っていた保険証を見た」 「……」 「お、お金はとっていないぞ!」 慌てた風に久也が付け足してきたので松本はまた笑った。

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