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あまりにも久し振りで。 順序がまるでなっていなくて。 妙に焦る指先はどこかぎこちない愛撫を綴るばかり、突拍子もなかったり、的を外れていたり。 がっつきすぎないよう抑え込もうとすればするほど空回りするような。 あれ、俺、どうした? こんなの筆下ろしぶりの失態に近くない? 数ヶ月続いた禁欲生活のツケに松本は混乱する。 そんな恋人に久也は失望するでもなく、ただ愛しげに微笑し、自分の真上で自滅の道を辿り行く彼に優しく言う。 「焦らなくていい」 ……嘘でしょ、まさか、久也さんにこんな風に気遣われる日がこの俺にくるなんて。 無様に凍りついた松本の肩を抱いて、久也は、体を起こした。 肌寒い1LDKの片隅、剥き出しの床の上で自己不信に陥っている松本と向かい合う。 「なんかごめんなさい、俺、童貞のガキみたいで」 発熱しつつしょ気る松本に久也は首を左右に振った。 乱れた服のまま、おもむろに、松本の膝の上に乗り上がってくる。 正面の間隔を少し空けて。 「君は……あれはしなかったのかい」 「え?」 「……マスターベーション」 「そりゃ、しましたよ、いっぱい。久也さん、おかずにしました」 「そこまで聞いていないっ」 久也は頬を紅潮させて松本を睨んだ。 「久也さんもした?」 問いかけると、斜め下に視線を逸らして、浅く頷く。 「君は、その、勢い余っているようだから……一度、自分で……したらどうだ」 また、ゆっくりと松本の顔に視線を戻して、赤面しながらも久也は言うのだ。 「……久也さんを目の前にしながらオナニーでいけって?」 「……」 「ある意味焦らしプレイですよ、それ?」 「……落ち着くかもしれないだろう?」 松本の肩に回していた両手の内、久也は、右手を滑り落とした。 松本へ伸ばすのではなく自分の下肢へ。 「私も……するから」 思わぬ展開に硬直する松本の目の前で久也は自分の部屋着の中に手を沈めていく。 手首まで沈んだところで、腰が、ぴくりと震えた。 柔らかな綿の布地が手の甲のかたちを浮かび上がらせている。 「ん……」 そうして久也は自身のペニスを外気に取り出した。 天井の照明を浴びて艶々と光る、五指に見え隠れする、いやらしいフォルム。 松本はつい喉をごくりと鳴らした。 久也の手の上から触れようとしたら「駄目だ」とぴしゃりと断られる。 「君も……しなさい」 「俺は久也さんに触れたいんですけど」 「ほら、そうやって……また焦る」 「う」 「焦らなくていいから」 久也の股間に釘づけになりかけていた松本は久也の双眸を改めて見つめた。 「ゆっくり気持ちよくなろう?」 銀縁の眼鏡越しに気恥ずかしそうに笑む双眸に促され、松本は、同意を示す行為に及ぶ。 ジーンズのホックに手をかけて、ファスナーを下ろし、すでに熱くなっていた隆起を取り出す。 視界に飛び込んできた松本のペニスに久也は意味深に双眸を細めた。 体の奥底がぎゅっと疼く。 自分だって、本当は、焦っている。 今すぐにでも深く繋がりたい。 ずっと奥まで早く愛されたい。 でも、まだ、夜は長いから。

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