115 / 130

オマケ後日談1/5

秋と冬の中間地点。 宵闇が完全に夜と同化して冷え込みがぐっと増した時間帯、松本はコンビニの袋をがさごそ言わせて久也の部屋を訪れた。 「こんばんは、久也さん」 「こんばんは」 ドアが開かれると同時にいい匂いが漂ってくる。 空腹だった松本は素直に腹をぐうーと鳴らした。 「君は子供か」 シンプルな部屋着で出迎えた久也は苦笑しつつ松本を中へ促す。 「昼に学食でナポリタン食べて、それから何も食べてないです」 「じゃあすぐ食事にしよう」 「うん」 久也はすでに具材を準備していた鍋に火をかけて温めてからダイニングテーブルへ運ぼうとした。 すかさず松本が布巾を二枚用意して、代わりに慎重に鍋敷きの上へと持って行く。 その間も彼の腹がぐーぐー鳴っているのに久也は笑った。 「つみれだ、これ、手作りですか?」 「いいや、市販のものだ」 「この味付け久也さんが生み出したの?」 「残念ながらそれも市販の鍋料理専用スープの元だ」 「うん、おいしいです!」 白菜をはふはふ食べて「あちち」を繰り返しながら松本は部屋の中を何気なく見回す。 「すっかり落ち着きましたね、家具とかシンプルで久也さんっぽい、居心地最高です」 「ほとんど君が選んだものだが」 「そうでしたっけ?」 松本が買ってきてくれた缶ビールを開けて、久也は、おもむろに喉を反らす。 本日、午後に半休をとっていた彼は洗濯や掃除、買い物で忙しく、あまり水分をとっていなかったため、最初の一口をおいしそうにちょっと時間をかけて飲んだ。 緩やかに動く喉元。 かぶりつきたい、と食事中の松本は思う。 あんまりにもお行儀が悪いと、その場では止む無く許されるものの後で叱られるので、我慢した。 「ふぅ」 満足そうにため息を洩らした後、じっと凝視する松本と眼鏡のレンズ越しに視線が合い、久也は目元を仄赤く染める。 「見過ぎだぞ」 「ごめんなさい」 深まる秋の夜長に久也さんと鍋をつつく。 これ以上の幸せってあるのだろうか。 ……いや、あるか。 クリスマスも年末年始も誕生日も、好きなだけ、一緒にいられる。 久也さんを独り占めできる。 「何かえろいことでも考えているのかい」 久也のいきなりの問いかけに松本は口に入れたばかりのつみれを危うく噴出しそうになった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!