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オマケ後日談2/5
松本が後片付けをしている間、久也は持ち帰った仕事をノートパソコンで処理していた。
以前、覗き込んでみたら建物の図面がずらりと並んでいて、彼は職場でスキャンされたそれらの画像を歪みやゴミが付着していないか一つ一つチェックしていた。
すでに何がどこにあるのか配置を把握済みのキッチンでインスタントのホットコーヒーを淹れてテーブルに置くと、画面に注いでいた視線をちゃんと松本に向けて久也は礼を述べた。
「ありがとう。先にお風呂、入りなさい」
「久也さんは? 一緒に入らないの?」
「私はこれを片づけてから入る」
熱いコーヒーを慎重に啜った久也は、先月松本と一緒に入浴したことを思い出し、苦笑する。
「あの浴槽は狭いだろう、却って疲れてしまう」
「狭いからいーんです、よりくっつけます」
「早く入りなさい」
画面に視線を戻してしまった久也に松本はわざとらしく「久也さん、冷たい」と拗ねてみせた。
しかし仕事の邪魔をするつもりは毛頭なく、寝室に置かれたチェストの最上段からユニク○で全部揃えた自分専用お泊まり着替えを準備すると、玄関側の浴室へ迷わず向かった。
二十分後、リビングに戻ってみると久也は同じ姿勢のままパソコンを覗き込んでいた。
洗面所で歯磨きも済ませてきた松本は部屋の隅に置いていたバッグから参考書やノートなどを取り出し、久也の向かい側でレポートの下書きに取り掛かる。
「どういう内容のレポートなのかい」
「世界遺産登録と今後の観光経済のあり方について、です」
頬杖を突いた松本は頭にタオルをかけたまま眠たそうな顔でページを捲る。
背中が丸まらないよう姿勢に気を配る久也はカチ、カチとクリックを繰り返す。
静かな室内に二人の立てる物音が優しく響く。
「……あーだめだ、今、全然だめ」
ペンを放り出してテーブルにうつ伏せ、そのまま寝付こうとする松本に久也は「こら」とまるで子供相手であるかのように注意した。
「風邪を引く。眠たいなら先に布団に入っていなさい」
「やだ、ここにいます」
「もう少しで終わるから。お風呂を済ませたらすぐに行く」
松本はまだ乾いていない前髪越しに久也の方へこっそり視線を向けてみた。
伏し目がちな久也さん、痺れる。
マウスに置かれた手のフォーム、綺麗過ぎる。
Vネックの狭間に覗く鎖骨、無防備な首筋、顎のラインとか、やば過ぎる。
「じゃあ、ちょっとだけ仮眠とります」
「別に朝まで寝てもらっても構わない」
隣接する寝室へ移動しかけていた松本の背後でそんな呟きが聞こえた。
久也さんたら、まーたあんなこと言って。
これでも臨戦態勢、入ってるんですよ?
貴方のためにちゃんと「待て」を習得したんです。
松本は寝室の扉を細く開けたままにしておくと久也のベッドにもぞもぞ入り込んだ。
「きもちいい……」
思わず独り言を口にしてしまうくらいの居心地のよさに松本はベッドの端でため息をついた。
明かりを点けていない寝室にはドアの隙間から細い一筋の光が訪れている。
耳を済ませればカチ、カチと優しい音色が聞こえてきた。
宣言通り松本は仮眠をとった。
がくんと意識が落ちて、しばし夢の中を彷徨う。
「キィ」という些細な物音が静寂に鳴らされて不意に意識を取り戻した。
「ん……」
「すまない、起こしたな」
寝室を訪れていたはずのリビングの光はもう消されていた。
ぼんやりとしたシルエットの久也が小さく謝って、ぱたんと、ドアを閉じた。
ラグの上を進むとベッドの中にゆっくり潜り込んでくる。
さっき自分が使ったボディソープと同じ香りがふわりと舞った。
緩々と目を開ければ久也の後頭部が視界に写った。
端に身を寄せていた松本はもぞもぞと彼に身を寄せ、ぎゅっと、背後から抱きついた。
「髪、濡れてますね」
「そうだな」
「寝癖ついちゃいますよ」
「明日は休みだから……いい」
久也はパジャマを着ていた。
スゥエットよりも襟のあるものがいいらしく、休日の朝は目覚めるとルームウェアにわざわざ着替える。
そういうとこ、ほんと久也さんっぽいよな。
濡れた髪に頬を押し当てた松本はそのパジャマ上の中に両手を滑り込ませた。
お湯で温められたお腹の辺りをなでなでする。
「明日、どこか行きます?」
「……うん?」
「遠出して紅葉、見に行ったりとか」
お腹から脇腹、胸元と、広げた両手を緩やかに前後させる。
滑々した手触りを好きなだけ愉しむ。
「君に任せる」
「じゃあ、一日中ずっとベッドにいましょうか」
松本はまたぎゅっと久也に抱きついた。
大胆に足まで絡めて、寝たまま彼におんぶしてもらっているような格好となる。
「……湯たんぽになった気分だ」
微かな声を立てて久也は笑った。
「君の好きにしていい、千紘君……」
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