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オマケ小ネター夏いろいろー

【ビアガーデン】 インターン先の指導担当者から割引クーポンをもらい、平日の夜、松本は商業ビルで開催されている屋上ビアガーデンへ出かけた。 「生でよかったですよね?」 「ああ。どうもありがとう」 もちろん年上の恋人を誘って。 久也が残業を早めに終わらせてくれたおかげで夜七時を過ぎたばかり。 ゆっくりと暮れゆく夕空、心地いい夜風、黄昏に瞬き始めた街並み、最高のロケーションだった。 「料理も適当にとってきます」 平日の夜ながらも仕事帰りの会社員らで盛況、バイキング形式の料理がずらりと並ぶテーブル周辺も混み合っている。 松本は他の客の隙間をスイスイ渡り歩き、二枚のお皿に様々な料理を綺麗に盛りつけ、久也の待つテーブル席へ戻った。 「どうぞ、久也さん」 「ありがとう。お店で出されるような盛りつけだ」 「あれ、まだ飲んでいなかったんですか?」 「千紘君を待っていた」 腕捲りされたワイシャツ、第一ボタンは留められたまま、ネクタイも緩めずに久也はジョッキを手にした。 「お疲れ様です、久也さん、かんぱーい」 「乾杯、千紘君」 夜風の他にも、設置されたミストファンの送風が熱気を和らげる中、二人揃って一口目の生ビールを乾いた喉に流し込んだ。 「外で飲むのも気持ちがいいな」 「そうですね、人は多いですけど。久也さん、人ゴミ苦手でしょう?」 「……」 「今度久也さんのおうちでベランディングしましょう、それなら二人でゆっくりお酒が飲めます」 「うちのはベランダじゃなくバルコニーだ、違いがわかるかい」 「この塩焼きそばおいしいですよ」 「……最近はそうでもないんだ」 「え? やっぱり焼きそばはソースがいいですか?」 具だくさんの塩焼きそばをパクパク食べていた松本はキョトンとした。 久也は銀縁眼鏡をかけ直し、会社員もいれば家族連れ、若者同士のグループも多く見られる賑やかな屋上庭園を見渡した。 「前は確かに人の多い場所が苦手だった、でも、今はそうでもない」 哄笑で溢れ返る周囲に顔を向けたまま視線だけ松本へ傾けて言う。 「千紘君といると平気になったというか。楽しめるようになってきた」 松本はろくに咀嚼していなかった剥きエビをゴクリと丸呑みしてしまった。 「うッ……ごほごほッ」 「大丈夫かい」 「大丈夫、です……それはとても光栄ですね、嬉しいです……」 久也さんってたまにナチュラルに惚気てくれるよな。 真面目でお堅いようでいて、そーいうことぽろっと言ってくれちゃうの、堪らない。 「じゃあ週末はナイトプール行きましょう」 「勘弁してくれ」 【怖い番組】 「久也さんってホラー映画苦手でしたよね?」 お泊まり週末、早めの夕食を終え、ソファでゆったり寛ぐ久也に松本は尋ねた。 「ああ、苦手だ、邦画でも洋画でも観ないようにしている」 「今、目の前のテレビで心霊写真特集やってますけど、これは平気なんですか……?」 寝苦しい熱帯夜に必見! 体感温度下がること間違いなし! 恐怖の心霊スペシャル番組! 「これは平気だ」 「えぇぇえ……基準がわかりません」 夕食前にシャワーを浴びて半乾きの髪、肩にタオルを引っ掛けた久也は興味深そうに夏らしい特番を眺めている。 隣に座った、まだ入浴前の松本の視線はどこか落ち着かず、ふわふわしている。 「うわ」 恐る恐るテレビをチラ見してみれば、タイミングの悪いことに「おわかりいただけただろうか」というナレーションと共に心霊現象がバーンと拡大されたところで、松本は慌てて目を逸らした。 「千紘君、怖いのかい、七月生まれなのに」 「夏生まれだからって怖いの得意とか、そんな法則ありません」 「チャンネル変えようか」 「いいです、久也さん見てるし、お好きにどうぞ」 なーんて言いましたけど、一人のときは徹底して避けてますよ。 ただの物音にも過剰にビビリますし。 シャワーもいつもより短時間で済ませますし。 夜中に起きたら思い出して寝れなくなるし。 「こんなにはっきりと写り込むものなんだな」 久也さぁん、察してくださいよぉ。 「……千紘君」 その場で丸まった松本はテレビに背中を向けて久也の膝枕に縋りついた。 「怖いのかい」 「別に」 「ふふ」 久也の笑い声が聞こえてきて松本は拗ねたように唇を尖らせる。 「ビビリでかっこわるくてスミマセン」 「構わないが。似ていると思って」 「似てる? 何にですか?」 「昔、飼っていた犬に。雷が鳴ると怖がって、こんな風に膝に乗っかってきた」 「………………」 以前、久也の犬になりたいと願ったこともある松本だが、これは不本意である。 ガブリ いじけた松本ワンコは久也の手を甘噛みした。 「お行儀が悪いぞ、千紘君、めっ」 あ……これはこれで……久也さんに叱られるの、悪くないですね……。 『おわかりいただけただろうか……』 おどろおどろしいBGMと共にお決まりのナレーションが流れる中、真面目で優しい御主人様ならぬ久也の懐に頭を突っ込み、怖がりながら思い切り甘える松本ワンコなのだった。

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