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オマケ後日談ーHappy birthday!2/4ー
本日の誕生日で松本は二十三歳になった。
一回り年下の彼をシャワーに入らせ、後片付けをしていた久也はふと食器を洗う両手を止めた。
この部屋だと二人で暮らすには狭いだろう。
引っ越さなければな。
家具は特に買い替える必要もない、間取りは2LDK、お互いの生活のリズムもあるし彼は意外と繊細だ、寝室は別々にしよう。
いや、その前にやらなければいけないことがある。
彼のご家族への挨拶だ。
手土産は何がいいだろうか。
そもそも何と言えばいいのか。
息子さんの千紘君を私に下さい、か?
……モノじゃあるまいし、親御さんからしたら何様という感じだな。
千紘君のことは必ず幸せにします、か?
……世の中何が起こるかわからないし、無責任な発言にも聞こえるな。
「……」
水を流しっぱなしのシンク前で久也は色白の頬を紅潮させた。
気が早いような、しかし近い将来いずれ直面する人生の分岐点。
それを乗り越えた先に待つ松本との二人暮らし。
「……参ったな」
三十五歳・バツイチにして胸のときめきを抑えられずに久也はため息まじりに呟いた。
「参ったな」
熱いシャワーを浴びていた松本は思わず一人ごちる。
一ヶ月以上振りに久也と会い、フライング気味に臨戦態勢に入りかけている自分の下半身に苦笑いを浮かべた。
半勃ちですね、コレ。
今日も一日資料集めだの機材運びだの、何時間もデザインツールいじったり、スタバまでおつかい行ったり、頭も体もそれはもうフルに使いまくった。
久也さんの部屋に来るまではヘロヘロだった。
それなのに。
『おかえりなさい』
あれで一発回復しました。
勃起しなかったのが不思議ですね。
発熱気味な下半身を持て余しつつ、洗髪を終えた松本は、ありふれた色に染められた髪を掻き上げて深呼吸した。
この状態で出て行って久也さんにヒかれたらどうしよう。
そんな心配、今更かな?
『真面目過ぎてつまらない私の旦那サマ』
貴女はああ言いましたけれど、ね、とんでもない。
俺は久也さんと出会って長ったらしく続いていたレム睡眠から目が覚めました。
ずっと肌身離さず抱いていたいくらいです。
「よし」
松本はシャワーを止めた。
未だに下半身が腕白な素の自分を曝け出そうと、浴室の折戸を勢いよく開いた。
「うわ」
開きざま驚いた。
まさか脱衣所に久也がいるとは思わず、引手を握ったまま硬直した。
整理整頓されてはいるが、お世辞にも快適広々と言えないスペース。
いつの間にやってきていた着衣姿の久也は、まだ湯気の立ち込める浴室の中に立つ松本に告げた。
「なかなか出てこないから」
淡く濡れた、じれったそうな眼差し。
狭い脱衣所を進んでさらに近づいてきて、せり上がる鼓動に喉元を圧されて返事ができずにいる全裸の松本に身を寄せた。
「もしかして、一人で……シていたのか?」
松本は首を左右にブンブン振った。
自分の股間にためらいがちに注目していた久也がその場に跪くと、どきっとして、呼吸まで停止させた。
「こんなになって……若いな……」
吐息が触れるほどの距離。
僅かな息遣いにすら元気いっぱいに反応してしまい、さすがの松本も腰を引こうとしたのだが。
「待って」
久也に引き留められた。
この数週間、解放させる暇もなく、濃厚な本能がたっぷり溜め込まれたペニスに白い指がそっと触れた。
触れるなり優しく絡みついてきた。
シャワーで満遍なく濡れた棹をゆっくりと上下に擦り立てられた。
「んっ……久也さん……いつになく積極的ですね……?」
久也は怒ったような上目遣いで松本を見やった。
ぎゅ、といきなり強めに握り締められて松本は腰をブルリと戦慄かせた。
「君だって積極的じゃないか」
些細な愛撫に忠実にどんどん硬くなっていく熱源の頂きに、今度は、唇が触れた。
控え目に覗いた舌の先が鈴口をぬるりとなぞる。
膨張した根元の辺りを熱もつ掌が緩やかに行き来する。
松本は安定しない折戸を掴み、もう片方の手をドア枠に添え、過剰にビクつく体を苦心して支えた。
「あ……」
上下の唇が色鮮やかな頂きに密着した。
そのまま口内へ誘い込まれる。
あたたかく湿り渡る粘膜に多感な先端が包み込まれ、遠慮がちに吸いつかれて、感度に富んだ裏筋を擽られた。
「う、わ……それ、キます……」
どうしても腰が独りでに揺れ、口内摩擦が生じ、より昂ぶって、久也の唇奥で反り返ってしまう。
「ん……すごい、熱い……」
「うん……俺の、おいしいですか……?」
「……」
「ごめんなさい」
咎めるような視線を送られて松本がすぐさま謝れば。
伏し目がちになった久也は熱せられたペニスに口づけ、ぎこちなく囁きかけた。
「千紘君のペニス、おいしい……」
う。
「あ、これ、だめです、もう」
「射精するのか……?」
「し、します、でます、っ、あ、久也さ……っ」
久也に躊躇なく頬張られて松本はぐっと項垂れた。
反射的に癖のない黒髪を片手で握り締め、そのまま喉奥目掛けて溜め込まれていた本能を盛大に解き放った。
「ッ……はぁッ、ッ、ッ……!」
本格的な夏の始まり、熱いシャワーで火照っていた肌身をさらに滾らせ、久し振りの絶頂に頭をまっしろにさせた。
久也は全て迎え入れた。
舌の上で何度か激しく跳ねたペニスに切なげに眉根を寄せ、労わるように、甲斐甲斐しく啜った。
「あ、あ……だめ……やばい……」
「ッ……ぅ……」
呻吟した久也に松本ははっとした。
無意識に五指にきつく絡ませていた黒髪を自由にし、献身的な唇から我が身を引き抜くと、俯いた恋人を覗き込んだ。
「予想以上に……いっぱいでた……」
耳朶の隅々まで茜色に染め上げて呟いた彼に松本は……抱き着いた。
「久也さぁん……充電、すぐなくなっちゃいます……久也さんがぜんっぜん足りないです……満タンになるのに明日の夜までかかりそうです……」
「古くなった携帯電話みたいだな、千紘君……」
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