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「ごめんねー、狭くて」
「だ、大丈夫ですっ……!」
今日は結局智駿さんの家にお泊りすることになった。まだ終電はあるけれど、この時間に家に帰るのもめんどくさいし、智駿さんの家のほうが学校に近い。そんなわけで智駿さんの厚意に甘えて泊めさせてもらうことになった……が。
どうやら、客人用の布団をクリーニングにだしていて、寝具がひとつしかないらしい。ソファで寝るにも毛布一枚で寝るには寒い……というわけで、智駿さんと同じベッドで一緒に寝ることになった。
「え、えっと……お、おじゃまします」
「ふ、おじゃましますってなに? ……どうぞ」
なんだか、妙に緊張してしまう。男同士なのだから気が引けるということもないのに、なぜか俺の心臓はばくばくと高鳴っていた。ベッドに体重をかけると、ぎし、とスプリングが鳴ってかあっと顔が熱くなる。なんだかベッドの軋む音ってエロいよなあなんて意味のわからないことを考えてしまって、俺は自分を殴りたくなった。男同士で寝るのにエロいもなにもないじゃないか。
「寝心地悪くない? 大丈夫?」
「大丈夫です……ありがとうございます」
智駿さんに背を向けて、枕代わりのクッションに俺が頭をのせると、智駿さんが布団をかけてくれる。ふわ、と智駿さんの匂いが鼻を掠めた。智駿さんはパティシエということもあって香水はつけていない。それでもなんだかいい匂いがする。まるで、優しく抱きしめてくれる太陽の光のような。すごく気持ちよくて、布団に顔をうずめるようにしていれば、突然、するりとお腹のあたりに手をまわされた。
「んっ……⁉」
「もっとこっち来なよ。布団かからなくない? それに落ちちゃうよ」
ぐい、と智駿さんがベッドの中央に俺を引き寄せてきた。背中に、智駿さんの身体を感じた。
「……っ」
一気に俺の体温が上昇する。智駿さんはそこまで筋肉質な身体をしていないけれど、こうしてくっつくとちゃんと筋肉がついているんだ、ということがわかる。お腹にまわされたままの智駿さんの手のひらが暖かい。……なんだろう。俺、おかしい。なんでこんなにドキドキしているんだろう。
「おやすみ、梓乃くん」
「……おやすみなさい……智駿さん」
おやすみ、ってそれだけの言葉を言うのに、なんで俺はこんなに震えているんだろう。もうちょっとくっつきたいなんて、どうして思っているんだろう。こうして自分よりも大きな身体に触れて寝ることが、こんなに気持ちいいことだとは思わなかった。とくとくといつもよりも少しだけ早いリズムを刻む心臓の音が、布団のなかに響いていないだろうか、智駿さんに聞こえていないだろうか。ぐるぐると頭のなかでふわふわとした波のようなものが回って、俺はなかなか寝付くことができなかった。
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