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「……あれ」
カーテンから日が差し込んでくる。瞼の裏が明るくなって、俺はゆっくりと目を覚ました。
いつもの布団と違う。……ああそうだ、智駿さんの家に泊めてもらっていたんだ。なんだか暖かい。すごく気持ちいい。目の前のなにかがほんのりと熱くて、抱きしめていると頭がふわふわするくらいに、心地良い。
「……ん」
ふと、俺は何を抱きしめているのだろう、と我に返る。ゆっくりと視線を動かしていって……
「ひっ」
思わず、小さな悲鳴をあげてしまった。俺が抱きついていたのが、智駿さんだったから。俺は寝ている間に智駿さんの背中に擦り寄っていたらしい。男同士でベッドのなかで密着して寝るというのはいかがなものか……俺は寝ぼけていたとはいえ自分のやっていることに若干ひいてしまった。
「んー……?」
「あっ、智駿さん……」
智駿さんが小さく身動ぐ。起きてしまったのだろうか。すぐに智駿さんのお腹に回している手を離して、この謎の状況をなかったことにしようとしたけれど……ぱ、と手を掴まれてしまった。智駿さんは俺の手を撫でている。俺に背を向けているため起きているのかどうかは定かではないけれど、俺が抱きついている、というのは察してしまったかもしれない。手を撫でられていては引くこともできず、俺がどきどきとしながら固まっていると――
「梓乃くん、おはよ」
「……!」
くるん、と智駿さんが反転して、俺の方を向いた。恐る恐る顔を見てみれば……ばっちり目を開いている。つまり――俺が抱きついていた、というのはバレている。
「お、おはようございます……」
「梓乃くん、学校何時から?」
「十時過ぎ……」
「あー、いいなあ。僕は七時にはお店につかないと」
「は、早……そっか、パティシエですもんね……」
「うん……だからもうちょっとだけしかこうしていられない」
「……今、何時……あれ、五時……」
ベッドサイドにあった俺のスマホをみれば、まだ五時を少し過ぎたくらい。慣れないベッドで寝たから多分、自然と早く起きてしまったのかもしれない。普段から早起きしなきゃいけない智駿さんは大変だなあなんて思いながら、俺はもう一度スマホをベッドに置く。
何事もなかったようにこのまま二度寝をしようかと思えば……ぎゅ、と抱き寄せられた。ぎょっとして俺が肩を震わせたからだろうか、智駿さんがくすくすと笑う。
「抱きまくら」
「ちょっ……抱きまくらって……」
「嫌だった? さっき梓乃くんが僕のことこうしてたからいいかなって思ったんだけど」
「あっ……あれは……」
どこか意地悪く、智駿さんが言う。背に手を回されて、くしゃ、と髪を撫でられて。なんだかものすごく気持ちよくて、俺は抵抗できなかった。俺が智駿さんに抱きついていたことを指摘されて恥ずかしかったけれど、もう一度、俺は智駿さんに抱きつく。今度は正面から。
「腕に頭のせていいよ」
「えっ……えっと……」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれて促されて、俺はおずおずと智駿さんの腕に頭を乗せた。目の前に、すこし大きく開いた襟から覗く智駿さんの鎖骨。ふわ、そこから智駿さんのいい匂いがする。なぜか、胸がきゅんとなってしまう。
布団の外は少しだけ寒くて、それでも全身はぽかぽかと暖かい。胸が満たされていくとまた、睡魔が襲ってくる。
――俺はいつのまにか、夢の世界に堕ちていた。
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