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「おはようございます~」
「……」
俺のバイト先は、駅の近くにある個人経営の居酒屋だ。一緒に働く仲間は入れ替わりもあまりなく、みんな仲がいい。だから、俺が出勤したときに挨拶も返さずにじーっと俺を見ている伊澄はどうしたのだろうと、不思議に思った。
「……何?」
「……梓乃、何かあった?」
「なにか? なんで?」
「……え、なんか……顔つきが……変」
「へん?」
伊澄は同い年の女の子。そんな彼女に「顔つきが変」なんて言われると、いくら彼女に気がなくたって傷つく。俺はそういう見た目とか一番気になる年頃だから、伊澄の言葉にショックを受けていた。伊澄はそんな俺に気付いたのか、慌てたようにぶんぶんと顔を振る。
「違う、ちがうちがうよ! 悪い意味じゃないって!」
「……じゃあ、どんな意味」
「えー、なんて言うのかな、こう、こうっ!」
伊澄はどうやら言葉が浮かばないらしく、ぱたぱたと手を動かして必死にその微妙らしいなニュアンスを表現しようとしていた。でも、残念ながら俺は伊澄の言いたいことが全く理解できない。俺が苦笑いをしていると、伊澄はハッとしたように俺を真っ直ぐにみて、ぴっと指を指してきた。
「そう! なんか、色気ムンムン!」
「ばっ……ばかじゃねえの!」
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