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「……なんか、僕から愛されている気がしないって、いつも言われる」 「……? プレゼントあげない、とか? プレゼントイコール愛とか思ってる女いますよね」 「いや……そんな貪欲な子たちじゃなかったよ……」 「???」  愛されている気がしない? そう言われて全くピンとこなくて、俺は首をかしげるしかなかった。だって、俺は智駿さんと一緒にいるとき、ものすごく愛されているって感じがするから。男の俺と女の子では感性が違うかもしれないけれど、それでも智駿さんがドライだなんて思わない。 「僕は、付き合っていた彼女のことを好きでいるつもりだった。ちゃんと言葉でも伝えていたし、連絡を取りたがる子だったらそれに合わせてたくさんメールとかしてあげていたし。でも、それでもダメだったみたい」 「……なんで、ですか?」 「僕は結局、愛しているんじゃなくて奉仕しているだけだった。……って白柳に言われた」  はあ、と智駿さんが肩を落とす。ちょっと言っている意味がわかるようでわからないぞ、と俺がきょとんとした顔をしていたから、智駿さんが苦笑した。 「僕は「好きだからこの子を喜ばせよう」としていたんじゃなくて、「付き合っているからこの子を喜ばせよう」としていたんだよ。キスとかセックスとか、それらも好きだからしていたんじゃなくて、付き合っているからにはしなくちゃって義務感に駆られてしていた。僕は喜ばれること自体が好きだったから、彼女が喜んでくれることが嬉しくて色々とそういうことをしていたけれど……それは結局彼女を好きってことじゃなかったんだ」 「……そういうもんです?」 「女の子って多感だからさ、なんとなく感じ取っちゃうんだと思うよ。言われてみれば、僕は一人でいるときに彼女のことを想ったりしなかったし、どちらかといえば「次は何をしたら彼女は喜ぶかな」みたいなことを考えていたかな」  ……なんだか、好きの定義がわからなくなってきた。でもたしかに、好きと奉仕したいはちょっと違うかもしれない。  あれ、でも、じゃあ…… 「……智駿さん、俺のことも……あの……好き、じゃなかったり、」  ブォン、と喧しいバイクが車の隣を横切っていく。俺の言葉の語尾がそれにかき消されて、なんだか不安になった。俺は、智駿さんのことが好き。大好き。でも智駿さんが俺のことをそう思っていなかったら、すごく、すごく哀しい。 「……そう思う?」 「……え」  智駿さんが車のウィンカーを出す。あれ、そこで曲がるの? と俺は目を瞠る。いつも、智駿さんが曲がる場所とはちがかったからだ。俺が唖然としていると車は人通りのない道に入っていって、停車してしまう。わけがわからず俺がそわそわとしていると、智駿さんはシートベルトを外す。そして、ガバっと俺を抱きしめてきた。 「……僕は、梓乃くんのことが、好きだよ。本当に」 「ち、はやさん……」 「――あふれるくらいに、愛している」  ドッ、と心臓が大きく高鳴った。  夜の暗闇が、俺たちを包んでいる。静寂が、他の者たちを消している。智駿さんの体から溢れ出る熱を感じ取ると、俺の全身が心臓になって産声をあげたようにバクバクとなりだして、その音だけが俺の聴覚を支配した。微かな、服の擦れる音がやけに熱っぽく聞こえた。  ――一瞬でも疑った自分を、愚かに思った。こんなの、疑うまでもない。智駿さんの全身から、答えはすべてでていたのに。目に見えるくらいに、智駿さんからは俺への愛が溢れ出ていたのに。街頭に群がる羽虫が歪んでいく。それで、気づく。涙がでてきた、と。 「……ちはや、さん……ごめんなさい……」 「……梓乃くん」 「……俺、知っていました、智駿さんが俺のことを愛してくれているの、知っていました、」  目を合わせると、智駿さんが安心したように笑った。本当に俺は馬鹿なことをしたんだと思った。恋愛をよくわからないままに付き合って、それで恋愛をする気のない人と言われて、そんな智駿さんに俺はひどいことをした。  街頭の灯りがちらちらと智駿さんの髪の毛を照らす。頬の輪郭を浮かび上がらせる。綺麗だな、そう思いながら俺はその顔に手のひらを添える。そして、吸い寄せられるように、キスをした。  ――この、甘く蕩けるようなキスに、俺は何度も感じ取っていた、はず。熱い、と。その熱の源は、どこにあるって、それは難しい問でもなんでもない。 「……すごく、今まで付き合っていた子たちに失礼かもしれない、けれど……僕は、梓乃くんに出逢って初めて「好き」を知ったんだ」 「……智駿さん」 「梓乃くんは、王子様みたいだね」 「?」 「止まった僕の心臓を、キスで蘇らせてくれた」 「……ちょっと、くさいこと言いますね」 「うん」  今度は、智駿さんからキスをされる。  智駿さんの言った、小っ恥ずかしい言葉の意味も、わからなくもない。恥ずかしくてちょっとからかっちゃったけれど、でも。こんなに、世界が蕩けていくような恋心を抱いたのは、やっぱり今まで付き合ってきた子たちには悪いけれど、初めてで。これが恋ってやつなんだと自覚すれば、恋心の心臓は動き出す。  決してモノクロではなかった世界に、さらに鮮やかな色が付いたような、そんな錯覚を覚えた。

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