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 今、俺に焦らしを与えているのは、時間だった。車に乗っているときの時間、車から降りて智駿さんの部屋に向かうまでの時間、そして扉をあけて玄関に入るまでの時間。一秒一秒がここまで長く感じることは、今まであっただろうか。時間は長く感じるのに心臓の鼓動はどんどん速くなっていって、時間感覚が歪んでいく感じが苦しい。  扉を閉じた瞬間に、俺は智駿さんにキスをした。  早とちりで智駿さんと距離を感じていたこの数日、そして再び縮まった距離に歓び溢れて爆発した愛おしさ。いろんな要素が、このキスを後押しする。 「あっ……」  智駿さんからの熱も、いつもよりも熱い。まるで初めてしたキスのようにドキドキして、それでも初めてのキスよりも激しくて。夢中で舌をまぐわらせているのに、意識は次第に震えだす下半身に。腰が砕けて立つことができなくなってきて、智駿さんにしがみつく腕の力でなんとか立っている。ガクガクとしだした脚になんとかがんばれとエールを送っているのに、智駿さんの責めがそれを掻き消す。気づけばもう限界がやってきていて、がくりと俺が崩れ落ちそうになったからか、智駿さんに身体を押されて壁に押し付けられる。 「んっ……んん……」  俺からキスをしたのに。主導権はいつの間にか智駿さんが握ってた。俺は智駿さんと壁のあいだに閉じ込められて、手首を掴まれて、唇を貪られていた。  立って、いられない。頭の中がふわふわして真っ白になって、智駿さんに全てを委ねる。舌を絡めることすらできなくなって、俺はただ智駿さんに口内を掻き回されている。歯茎をなぞられたり、舌の裏をこすられたり。口の中にも性感帯ってあったんだ、そう思うくらいに気持ちよくて、感じてしまう。 「んんッ……!」  ごり、と膝で軽く股間を押し上げられた。ズクンッ、と股間から脳天を貫くような快感を感じて俺はビクッ、と跳ね上げる。智駿さんはそれと同時に俺を開放したから……俺は股間を刺激されると同時にその場にぺたりと座り込んでしまった。 「う……ぁ……」  ビクンッ、ビクンッ……小さく震えながら、俺は座り込む。キスでイク限界まで追い詰められて、股間を責められ一気にイった。  キスで、イっちゃった……。  小さな壁を乗り越えて智駿さんへの愛情も膨らんでいる今。智駿さんへの想いで溢れかえっている今。俺は智駿さんから何をされてもイクんだと思う。キスでイけたことが嬉しくて、くったりと、はあはあと壁に寄りかかっていると、智駿さんが脇に手を突っ込んできて俺を立たせた。 「ん……ぁ、」  ふらふらになりながら、俺は歩き出す。服を脱がされながら、そして俺も必死に智駿さんのシャツのボタンを外しながら、二人で部屋に向かっていった。脱いだ服が点々と玄関からベッドの間に散らかってゆく。待てない、はやく相手を貪りたい、そんな気持ちがどんどん迫ってきていた。 「あっ……」  ドサ、と勢いよくベッドに押し倒される。はあ、と智駿さんの唇から溢れる吐息が、ひどく色っぽい。  智駿さんの瞳は、いつもよりも熱い。その灼熱に、俺の全身が焼かれてしまう。どこか荒っぽい智駿さんの手つき、もしかしたら智駿さんに余裕がないのかもしれない。まだ俺の肌に張り付く布たちを乱暴に剥ぎ取られて、それは床に投げ捨てられる。 「梓乃くん、」 「……っ、智駿さん、」 「好き、梓乃くん」  まるで、ケモノのようだと思った。智駿さんも、こんなふうになるんだと思うとドキドキした。いつも余裕たっぷりに俺を可愛がる智駿さんが、こうして必死に俺を求めてくる。こんなに、こんなに嬉しいことはあるだろうか。いつもみたいにじっとりと愛撫されるのも愛でられているって感じがして大好きだけれど、こんなふうにがっつかれるのも、すごくいい。俺が智駿さんの理性を奪っているのだと思うと、この上ない優越感に浸れる。この世界で、たったひとり、俺が智駿さんを独占しているのだと。 「あっ……! あぁっ……!」  にゅる、とチンコを掴まれる。早急だ、そう思ったけれど、俺も欲しくてたまらなかった。すでに溢れ出ていた我慢汁を使って、智駿さんがにゅるにゅるとチンコをしごいてくる。俺のものはもう触られる前から勃っていて、こうしてしごかれるとすぐに気持ちよくなってしまう。 「んぁっ、あっ、あっ」 「梓乃くん、」  息のかかる距離で、やっぱり智駿さんは俺の感じている顔をガン見していた。余裕があるないにかかわらず、智駿さんは俺のイキ顔が好きで見ていたいらしい。はやくイキ顔見せてよ、なんて声が聞こえそうな表情で見つめられて、どんどん早くなってくる手に責められて……俺の身体はぐぐぐっとのけぞっていく。 「あっ、いっちゃう、いっちゃう……」 「イキなよ。これから何回もイかせるから」 「あっ、ちはやさんっ、あっ、あっ……」  ああ、今日もイかせられまくる……幸せ。とろっとろにされちゃう、大好きな智駿さんにめちゃくちゃにされちゃう……。  嬉しくて嬉しくて、俺の口元がほころんでゆく。そして、智駿さんに見つめられながら、少しだけ笑いながら…… 「あっ、いくっ、でちゃうっ、あっ、あっ……!」  ぴゅくぴゅくっ、と俺は早速射精してしまった。かくっ、かくっ、て腰が震えて、俺はうっとりとしながらイった。

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