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 結局、終電には間に合わなかった。店長は途中俺に気をつかってくれて「もう帰っていいよ」って言ってくれたけれど、あの忙しい中一人帰るのは悪い気がして、俺が自分の意思で最後まで残った。自分の家に帰るにも、智駿さんの家にいくにもタクシーを拾うしかない。たぶん領収書をきればバイト先に請求できるだろうけれど、個人経営のお店のバイト先に交通費を追加で請求するのはなんとなく気が乗らなかった。だから、タクシー代はたぶん自費になる。  どっちにしても、タクシーを拾わないと家に帰れない。この駅の近くに住んでいるなんて友達はいないし。ため息をつきながらタクシープールまで歩いて行こうとしたときだ。 「おっ、君、たしか」  どこからか、声をかけられた。ちらりとそちらの方へ目線を向ければいたのは、どこかでみたことがある人。じっと目を凝らしてその人を見つめて記憶を手繰り寄せて――そして、思い出す。 「……白柳さん」  そこにいたのは、智駿さんの友人、白柳さん。なんとなく誇張した表現で智駿さんの過去について俺に吹き込んできた人で、雰囲気も怪しいから、正直あまり良い印象を持っていない。だからといって無視をするわけにもいかず俺が愛想笑いを浮かべていれば、白柳さんは俺の方に近づいてくる。 「梓乃くん、だっけ? なに、終電逃した?」 「……はい、まあ……」 「私の家でよければ、来るかい? ここから何駅も離れた家にタクシーは結構かかるだろ?」 「……い、いえ、大丈夫です」  この人が、友達とかだったら喜んで家にお邪魔させてもらっていた。けれど、どうにも俺はこの人が苦手で一晩同じ家で過ごすのには抵抗がある。何より見た目が本当に胡散臭くて、家にホルマリン漬けとか危ない実験器具とか置いてありそうで、怖い。  俺が後ずさるようにして白柳さんから遠ざかっていけば、白柳さんはにこにことしながら追ってきた。「大丈夫、大丈夫」ってぼそぼそといいながら手を振る俺の仕草を無視して、白柳さんは「遠慮しないで!」なんて言って、俺の手を掴んできた。 「いや! ほんと! 悪いし!」 「全然! 君に興味があるんだよ、私は!」 「やだー! 実験台とかにしないでー!」 「あはは元気だねェ」  そのままずるずると引っ張られて、結局駐車場まで連れて行かれた。ああ、やばい、明日目が覚めたら左右の腕が入れ替わっているかも……なんて妄想をしながら、俺は茫然自失で白柳さんの家に連れて行かれることになってしまった。

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