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 一日中、智駿さんのことを考えて。どうしようどうしようって思っている内に、あっという間に夜は来てしまった。 「あ、あの……智駿さん」  ブランシュネージュまでいけば、智駿さんが店から出てくる。いつもどおりにこって微笑まれて、嫌われてはいないかな……ってちょっとホッとしたけれど、智駿さんがいつもと違う行動にでたものだから俺はびっくりしてしまった。いつもなら、店の近くの駐車場に真っ直ぐ行く。でも、今日は違った。店を出て、駐車場とは真逆の方向へ向かっていく。 「ち、智駿さん……あの、どこ、いくんですか……?」 「さて、どこだろう」 「ちはやさん……あのっ……」  なんだか急に怖くなって、俺は立ち止まる。智駿さん、もしかして怒りに怒って悪い人に俺を売り渡しにいくんじゃ……なんて、智駿さんに別れを切り出される恐怖に、俺がわけのわからないマイナス思考を発揮していれば、智駿さんはとあるところを指さした。 「あそこ」 「え?」 「あそこいくよ」  指差す先を目で追えば――ビルの間で光る、ネオン。ドギツイピンクの看板と、お城のような外装……あれは、 「智駿さん……あれ、……あっ」  ラブホだ――そう気付いてなんだか怖気づいてしまった俺の顎を、智駿さんがくいっと持ち上げる。暗闇の中の、夜の光の中の、……サディスティックな微笑み。ゾクッとしてしまって、下腹部がうずく。 「梓乃くん。ついてくるよね?」 「はい……」  拒否なんて、できるわけがなかった。

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