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Biscuit de Savoie~たっぷりのジャムとご一緒に~

――雨が、降ってきた。  天気予報ではたしか今日は終日晴れだった。だからこうして突然雨が降ってこられると、結構困る。いや、偶然にも折りたたみ傘を持っていたから困りはしないけれど、気分が落ちる。俺は雨が嫌いだ。空が曇ってどんよりとするし、空気も湿っぽくて鬱陶しい。雨の音も耳障り。鬱々とした気分を晴らそうとミュージックプレイヤーの選曲を最近気に入っているアーティストの曲にしてみたけれど、やっぱりじとじととした気持ちは変わらない。 「……あれ」  駅を通りすぎようとしたところで、見慣れた人影が見えた。ホームからでてくるなり空をみてため息をついている、そいつ。たぶん傘を持っていなくて、突然の雨にうんざりしているのだろう。 「よ、入る?」  そいつに近づいていって、傘を差し出してみた。そうすればそいつ――梓乃は、「驚いた」と「助かった」、それから「複雑な気持ち」、そんないろんな感情の混ざったような顔をした。 「あ、おはよ、彰人。ありがと、はいるね」 「おはよー。どうぞどうぞー」  梓乃は、この前ちょっと襲ってしまったせいか時々俺の表情を伺うような顔をしてくる。俺が変な気を持っていないかどうか、警戒しているんだろう。関係がギクシャクしているわけではないけれど、そんな顔をされるとやっちまったな、なんてちょっと反省する。  別に、俺は本気の本気で梓乃のことを自分のものにしようなんて思っていない。そりゃあ最近の梓乃は妙な色気があって隣に来るとムラッとすることがあるけれど、本気で好きなわけじゃないから、そんなに警戒しなくてもいいよ梓乃、って言いたいところだけど言うと余計に変な雰囲気になりそうだから、言わない。 「彰人、肩濡れてるじゃん。いいよ、俺は頭だけいれてくれれば」 「いーのいーの、入って梓乃ちゃん」  あのときの俺の行動は、ほんの気の迷いだ。女の子にエッチなことをするのと同じ、遊んでいたらムラッときて触りたくなった、それだけ。梓乃に対してムラッとした原因はよくわからないけど、俺は断じて梓乃に恋とか、してない。恋とか俺らしさに欠けまくりだ。

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