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「――どこの高校から来たの?」
梓乃と仲良くなったのは、大学の新入生オリエンテーションで隣の席になったのがきっかけだった。話しかけたのは、俺の方から。大学では初めにできた友達とずっとつきあっていくことになると聞いたことがあったから、誰にはじめに話しかければいいか、正直迷った。友達になるのなら、趣味とか価値観が合う人がいい。俺はどちらかと言えば適当にぎゃーぎゃーと騒ぐのが好きだから、初めて梓乃と話したときはそこまで仲良くならないかな、と思った。梓乃は顔はいいけれど、おとなしめのタイプに見えるからだ。
でも、学籍番号が隣り合っているということで強制的に梓乃と話す機会が何度も与えられた。話していくうちに、ますますこいつは俺と合わない、思った。好きな音楽の傾向も違う、やっていたスポーツも違う、何一つとして俺と共有できる話題はなかった。ただ――隣にいるのは、心地よかった。なんで、って聞かれたら答えられないと思う。でも、時折やってきてしまう無言の時間も苦痛に感じなかったし、梓乃から漂ってくる空気がなんだか俺の心を落ち着かせた。彼を見ていると、癒やされた。
――梓乃とは、いつの間にかつるむようになっていた。憧れのキャンパスライフのようなことは、ほとんどしていない。キャンパスを歩けば見かける、庭でフリスビーをしてみたり日向に座って喋ったり、なんてことはしなかった。だらだらと一緒に話して、講義が終われば別々に帰って、時々一緒に飯を食いに行くくらい。周りの同学年と比べれば随分と枯れた大学生活を送っているような気がするけれど、心のなかはなぜか充実していた。
俺にとって梓乃はいてもいなくても変わらないようでいて、いなくなったら心にぽっかりと穴が空いてしまう、そんな人。ただの、友達――もしくは親友。だから、最近彼にムラッときてしまうのは、おかしい。どんなに大切な人であっても、彼は俺の恋愛対象外。俺は男に興味はない。最近の梓乃の妙な色気はたしかに認めるけれど、それに俺が反応してどうする。その色気に誘われるがままにこの前はうっかり襲ってしまったけれど、回数を重ねれば確実に梓乃との関係は崩壊する。俺の気持ちがどうこうじゃない。梓乃が俺を避けるようになる。
俺は今まで性欲のままに彼女をつくったりセフレをつくったりしてきた。したい、と思ったら襲ってしまう、そんなタイプだ。今までの女たちにしてきたことを、なんで俺は梓乃にしたんだろう。梓乃は彼女にもセフレにもできない――するつもりもない、友達なのに。
『あっ……あぁっ……』
たぶんあのときはちょっと可愛いなって思って軽くイタズラしたら――予想以上に梓乃が扇情的な態度をとるものだから、俺の理性が切れたんだと思う。記憶の欠片。梓乃を襲った時の、甘い甘い声、蕩けた表情。自分で襲っておきながら梓乃があんな風になるなんて思っていなくて、びっくりしてしまってあのときのことははっきりと覚えていない。
覚えていないから――きっと、現実の梓乃よりも俺の中の梓乃は蠱惑的。記憶の欠片を集めて映像をつくってみたら、どうやら間違いのピースが混じっていて、出来上がったものは本物とは別物の歪んだ映像。でも俺は、その映像から目を離せない。
『あきひと……もっと……』
――だめだって。これ以上は、だめだ。突っ込んだ関係は、俺は好きじゃないんだ。人間関係なんて、上っ面でいいだろう。俺は適当に生きていきたいから、本気で誰かを好きになったりとかしたくない。めんどくさい。
だから、だめだ。これ以上、梓乃のことをそんな目で見るな、あいつは、俺の友達以上の何者でもないから――
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