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Pithbiers glace~アーモンドの香りをフォンダンに閉じ込めて~

「ねえねえ梓乃ちゃん、あれいくの?」 「あれ?」 「花火大会。彼氏さんと」  前期のテスト期間が迫ってきているある日、不意に彰人がそんなことを言ってきた。そういえば花火大会のチラシがそこらに貼られるようになってきたな、と俺は思い出す。 「えー、いくつもりなかった」 「なんで!?  恋人と花火大会は定番っしょ!」 「人混み嫌いだし」 「……おー、」  毎年、その花火大会はものすごく混む。今までは、ちょうど花火大会がある時期には彼女がいなかったのもあるし、友達同士でいくのもなんだし、ということでほとんど行ったことがなかった。今年もまた行くつもりはなかったけれど、そういえば彰人は信じられないといった顔をする。 「あそこの花火結構綺麗だよ!?」 「うーん、昔みたことあるしなあ」 「浴衣の女の子可愛いじゃん!?」 「あんまり興味ないかなー……」 「浴衣エッチはしないの!?」 「……浴衣エッチ」  すごい剣幕でまくし立ててくる彰人から身を引きながら、俺はある単語に反応してしまう。浴衣エッチ、って。浴衣着たままエッチすることだよね。……やってみたいかも。 「……そこ反応しちゃうのかよ、梓乃ちゃん」 「あっ」 「俺が言ってるのはまあ、浴衣をはだけさせた女の子とエッチすることですが、まあ梓乃ちゃんの考えてることは自分が浴衣を乱されて犯されちゃうことですよね」 「……」  うっかり、浴衣エッチに反応してしまったことを後悔する。俺の事情をそれなりに知っている彰人の前で浴衣エッチに反応したら、それは彰人の言ったとおり自分が浴衣を脱がされてエッチしたいと思っていることがもろバレだ。  だって、智駿さんと浴衣エッチとかしたすぎる。智駿さんにゆっくりと浴衣を剥がれて蒸し暑い夏の夜に抱かれるなんて、考えただけで興奮してしまう。 「ね、梓乃ちゃん。花火大会いくでしょ?」 「……さ、さあね」 「あ、でもね、知ってる? 今回のマクロ落とすと課題レポート出るから花火大会どころじゃなくなるよ」 「……えっ!?」  花火大会行きたいな、そう思った矢先の彰人の言葉に、俺は肝を冷やした。俺の所属する学部の必修科目であるマクロ経済学で赤点をとると、大変なことになるらしい。その科目は、俺の一番苦手な科目だ。 「死ぬ気で勉強しないとねー。テストまで彼氏さんに会うのも自重しよう!」 「……う、うん」  テストまで、あと二週間くらい。バイトの時間も考えると勉強する時間はギリギリで、彰人の言うとおり智駿さんに会っている場合じゃない。二週間も智駿さんに会えないのは辛いけれど、智駿さんと花火大会にいくためだ。ここは我慢するしかないなあ、と俺は鬱々と溜息をつくしかなかった。

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