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「梓乃ちゃん!? きいてる!? ここをこうすると利子率がね、おい!」 「き、きいてる、きいてる……」  さて、智駿さんに会わないこと三日目。俺はさっそくテスト勉強に喘いでいた。三日前、智駿さんとたくさんいちゃいちゃしてエナジーは補給したはずだけれど、もう俺の体力はゼロを振り切ってマイナス。今回落としてはいけないマクロ経済学は、俺の不得意中の不得意科目。 「おちついて、経済っぽいめんどくさい言葉でてくるけど要は数学だから!」 「数学が俺は苦手なんだ……」 「男は理系に強くないとモテないよ、梓乃ちゃん!」 「智駿さんがいるからモテなくでいいもーん……」 「その智駿さんとデートするためにはこの数字を打ちのめさなきゃいけないでしょ! ほら、ファイト!」  彰人がそれなりにマクロ経済学は理解しているということで教えてくれてはいるけど、俺は依然ちんぷんかんぷん。これをクリアしないと智駿さんと花火大会にいけないという焦りのせいでさらにわけがわからなくなって、教科書もレジュメも頭にはいってこない。  俺が机に突っ伏して唸っていれば、彰人がぺしぺしとペンで俺の頭を叩いてくる。経済用語とか数字とかで頭がパンパンで悶々としていた俺がそんな彰人のちょっかいを無視していれば、彰人はそっと俺の耳元に唇を寄せてきた。 「最近、彼氏さんに会ってないんだよね?」 「おー……」 「セックスしてないんだ?」 「おー……」 「だからモヤモヤするんじゃない? 一発やっちゃえばスッキリするよ! どう? 俺とでも!」 「やかましい」  ちぇーっ、と言ってる彰人の横で、俺はため息をついた。彰人が「エッチしたくなったらいつでも誘って」なんて言いながら肩を組んできたからその手を払って、もう一度レジュメを眺める。 「ま、焦んなって。テストまでまだ時間あるし。最悪レジュメ丸暗記すれば赤点はとらないよ。梓乃ちゃん、暗記はそこそこ得意だよね」 「……暗記か、もうそうしようかな」  数字の羅列をみていると、もう無理だって諦めばかりが先行して、理解を妨げる。このまま理解しようと勉強しても無理なような気がして、俺は早々にレジュメ丸暗記に頭を切り替えた。そうすればまだ心に余裕ができてきて、鬱々とした気持ちは晴れてくる。 「あー……いけそうな気がしてきた」 「ほんと? やったじゃん!」 「ありがとー、彰人」 「お礼はエッチ一回でいいよ」 「昼飯奢るね」 「まじ? やったー!」  このまま赤点とって智駿さんと花火大会いけなかったらどうしよう、そんな不安が晴れてきて、なんとなく、心が軽くなってきた。

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