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 学校から帰ってきて、俺はばたりとベッドの上に倒れこむ。今日は講義が終わったあと、彰人と一緒に暗くなるまでずっとテスト勉強をしていた。問題の教科は暗記してやろうと頑張ってみればそれなりにできて、あと数日もやれば範囲の分は終わりそうだ。  ここ数日、智駿さんと連絡をとっていなかった俺は、急激にさみしくなって智駿さんに電話をかけてみる。あんまりにもテストに追い詰められて、智駿さんに連絡をとる心の余裕もなかったのだ。久しぶりに智駿さんに電話をかけるということで、俺の心はうきうきと跳ね始める。  1コール、2コール……少し待つと『はい』と智駿さんの声が聞こえてきた。 「あっ、もしもし、智駿さん!」 『梓乃くん。お疲れ様。テスト、調子はどう?』 「ふ、普通です!」  勉強疲れで悶々としていた頭が、智駿さんの声をきいた瞬間にすっと晴れる。いつの間にか自分のが緩んでいるのを感じた。 「智駿さん! たぶん俺テストいけます!」 『ほんと? それはよかった』 「どうしようかと思ってたんですけど、ひとまず安心かなって。ほっとして電話かけちゃいました」 『うんうん、僕も安心した』  耳元で智駿さんの笑う声が聞こえてくる。相変わらず、智駿さんの声は柔らかい。生で聞いても受話器越しで聞いても、すごく落ち着く。俺はベッドにごろごろとしながら会話を続けた。  とりとめのない話をぐだぐだと数分。智駿さんの体温を感じられないのはやっぱりさみしいけれど、声を聞いているだけでも幸せだ。智駿さんの微かな吐息とか笑い声とか、そんな音たちにどきどきする。 「智駿さん。早く会いたいです」  柔らかい声と布団のぬくぬくとした感じにぼーっとしながら、囁いた。こうしていると、ああ、自分は恋をしているんだなぁって、実感する。 『僕もはやく会いたいよ』  智駿さんの言葉に、未だにきゅんきゅんする。しばらく付き合っていると慣れがでてくるものだと思うけれど、俺はずっときゅんきゅんしっぱなしなのだ。こうして愛を語らうと、きゅーっと胸が締め付けられて全身が熱くなる。 「智駿さん……」  触って欲しい。抱きしめられながら、言われたい。布団の中が自分から溢れてくる熱で、どんどん暖かくなってくる。 『梓乃くん?』 「はい……」 『どうしたの?』  この前、言われた。一人エッチをするときの声を聞かせてね、って。まさか本当にやるわけ……って思ってた。でも、今、俺は……したいってすごく思っていた。智駿さんの声を聞いていると、身体の芯がぐーっと熱くなってきて、触られたくてたまらなくなるのだ。 「あの、智駿さん……」 『ん?』 「あの……」  ただ、あれは、冗談かもしれない。本当に電話越しに一人エッチなんてされたら、智駿さんどう思うかな。すっごくむらむらしてきてエッチなことをしたくてたまらなくなってくるけれど、やっぱり声は聞かせられない。智駿さんの声を聞いていると身体のきゅんきゅんが激しくなってきてどんどんエッチな気分になってきちゃうし……一旦電話を切ったほうがいいかも。そんな、色々と酷いことでうんうんと悩んでいたときだ。スピーカーから、楽しそうに笑う智駿さんの声が聞こえてきた。 『いいよ、梓乃くん』 「えっ」 『したいんでしょ。そのまま、していいよ』 「な、ななな、えっ」 『梓乃くんがエッチな気分になったときの声、わかりやすいからね。いいよ、きいているから、してごらん』  かあーっと顔が熱くなった。まさか、声だけでバレるとは。自分がむらむらしているときに声に出てしまうなんて思ってもいなかったから、咄嗟に否定もできずに俺は黙りこくってしまう。こんな、一人エッチしたいなんて気分がバレてしまうのはすごく恥ずかしいのに。沈黙は肯定、なんてよく言うもので、もう完全にする雰囲気だ。智駿さんは俺が始めるのを待っているのか黙っているし、俺ももう引き返せないし。 「あ、あの、俺本当にそんなに声だしませんからね!」 「うんうん、了解」  ここは、俺の部屋。もちろん他の部屋には家族がいるわけだ。普通にオナることすら気がひけるのに、これから俺がするのはオモチャを使ったアナニー。前もやったけれど、やっぱり嫌なスリルがある。  もうやるしかない、そんな感じになって、俺は意を決して智駿さんからもらったオモチャをベッドまで持ってきた。バイブとローション、それらを枕元に置いて、頭まで布団を被る。 「あ、あの……し、します、よ?」 「うん、どうぞ」 「……なにしましょうか」 「お好きなように」 「し、指示を……!」 「えー? じゃあ、乳首触って」  ああ、そういえばエロ小説かなんかで電話越し指示オナニーとかあったなあ……なんて思いながら、俺は智駿さんの言う通りに手を服の中に突っ込んだ。俺、一人エッチのときは智駿さんに触られるときほど感じないし声もほとんど出さないんだけど……そう思いつつ、人差し指の腹で乳首の先っぽをすり、と擦ってみる。 「……ん、」  じわ、と乳首が熱くなる。やっぱり、智駿さんを感じている時にすれば一人エッチでも感じられるっぽい。スマホを置いて、両方の乳首をすりすりとしてみれば、下腹部がきゅんきゅんと疼きだして気持ちいい。 「は……は、ぁ……」 『気持ちいい?』 「きもちいい……」 『もうちょっと強くいじってみて』 「んぁっ……」  布団の中に、自分の吐息が響く。今度は乳首を摘んできゅうきゅうと指に力をいれてみる。そうするとぐーっとアソコが熱くなってきて腰が勝手に浮き上がった。布団の中でのけぞって、俺は目を閉じて小さく声をあげる。 「あー……」 『イクまでそのまま触って』 「あっ……あ……」  一人エッチで乳首イキ、できるかな。俺は智駿さんの言うとおりイけるように、乳首の刺激を強めた。ぎゅって乳首を根本から引っ張って、こりこりと激しく転がす。はあ、はあ、って自分の息がどんどん荒くなっていって、それを智駿さんに聞かれているのかと思うと興奮して、どんどん感じてしまう。 「んっ……いくっ……」  しばらく乳首をコリコリし続けて、びくびくって身体が震えて、俺は乳首オナニーで達してしまった。自分で乳首をいじってイッてしまった恥ずかしさよりも、智駿さんの言うとおりにできたことの満足感がすごい。はー、はー、って息をしながら、俺はスマホをちらりとみる。画面に、『智駿さん』の文字。なんだか名前をみただけてドキッとして、俺はイッた余韻に浸りながらニヤついてしまった。 『あ、自分で乳首触ってイケたんだね。すごいね、梓乃くん』 「……俺イッたの、電話越しで、わかります?」 『もちろん。梓乃くんがイクときの声、僕何回聞いていると思ってるの』 「へへ……そっか……そうですね」  智駿さんは、俺の身体の全部を知っている。それが、たまらなく嬉しい。  ぽかぽかと火照る身体で寝返りをうって、うつ伏せになる。スマホを手にとって耳に押し当てて、にやにやとしながら俺は智駿さんに話しかける。 「……智駿さん。下、いじっていいですか?」 「ん、今度は自分からやるんだ」 「……俺の声、聞いていて欲しくて」

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