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「おい、智駿ァ!」
「なに、うるさいなあ」
新学期が始まって一週間。俺はさっそく智駿につっかかっていた。クラスメイトは「名物がはじまった」みたいな目で俺たちをみているが、そんなこと知ったことではない。
「おまえまた俺の彼女寝盗ったな!」
「はぁ? 身に覚えがないんだけど」
「奈々だよ、今のおまえの彼女! そんでもって俺の元カノ!」
「ああ……白柳の彼女だったんだっけ? いや、あっちから告ってきたし」
――智駿が俺の付き合っていた彼女と付き合う、というのはこれまで何度もあった。
智駿は、異様にモテる。見た目はたしかにいいけれど、それ以上にその人の良さが女子にうけているらしい。誰にでも優しくて、どことなく賢い。同い年の男よりは大人びているところがまたいいのかもしれない。
ただ、男からすれば脅威でしかない。学年の可愛い子トップ3の三人に告られたとか、羨ましすぎて嫉妬もできないほど。しかも、智駿は絶対に長続きしない。大抵一、二ヶ月で別れてしまう、まともに恋愛するつもりがないのか知らないが、可愛い子を摘み食いだけしてあっさり別れてしまうなんて信じられなかった。
「おまえさあ、どうせまたポイッてすんだろ? それなら盗らないでくれませんかね」
「盗ってないから。別に僕からいいよってないし」
「あー! 腹立つ! 俺がどんだけがんばって奈々と付き合ったと思ってんだ!」
俺が癇癪を起こせば智駿は興味なさげに俺から目を逸らしてきた。こいつはいつもそうだ、何事にもドライすぎる。みんなから優しいとか言われているけれど、実際は何にも興味がない、そう思う。強い、熱のようなものを持っていない。
智駿を、浮世離れしている、と思ったのはそういうことだった。何かに夢中になるというところをみたことがない。部活に入っているわけでもないし、付き合いも悪い方だし。専門学校はどうやら製菓の学校らしいけれどそういうことに興味があると聞いたこともない。人間らしさを感じないなあ、と思ってしまうところが、俺が智駿を苦手な原因の一つかもしれない。
「ったく、はやく奈々を返せよな」
「いやいや、別れたりしないって」
「それおまえが言うとギャグな」
とにかく、俺は智駿を理解できなかった。理解できないのにいちいち側にいるから、嫌いだった。最後のクラスまで一緒になって、本当にショックだ。なるべく俺と関わらないでくれ、と祈りながら俺は自分の席についたのだった。
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