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Manele~不格好な人形~

 今日は1日中雨だった。バイトが終わってからも変わらず降っていて、店を出た瞬間に俺はうんざりしてしまう。店を出て駅まで歩くと少しかかる。傘を雨が叩く音を聞きながら、俺は早足で歩いていた。 「……?」  店を出て数分歩いたときだ。俺のバイト先は路地に入ったところにあって、人気が少ない。そんな人通りのない道に立つ電柱の陰に、何かがあるのが見えた。近づいてみれば、人の足のようなものがみえる。あらかた泥酔したおじさんあたりだろうと素通りしようと思ったけれど……ちらりと視界に入ったその姿に、思わず俺は「彼」をじっと見てしまった。  びっくりするくらいに綺麗な顔をした青年。たぶん俺と同い年くらい。そんな彼が、目を閉じてぐったりと電柱にもたれかかっている。  なんだかかえって危ない人のような気がして、俺は気付かなかったふりをしてその場から立ち去ろうとした。けれど……ぱちりと目を開けた彼と、目が合ってしまった。 「あっ」 「……」  目が合って、うっかり足を止めてしまう。こうなると逃げ辛い。まずいな、そう思って俺は苦笑いしかできなかった。  そうすると、彼はふっと疲れたように笑って、言ってきたのだ。 「……拾ってくれない?」

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