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「で、梓乃くん。詳細を聞かせてもらおっか」  俺は、無事楓の猛追から逃れることができた。楓はもう少しこっちに残って、東京にはまだ帰らないらしい。でもとりあえず、俺は付き合っている人がいるから楓と二人で会うつもりはない、とはっきりと言ってきた。  そして、その日の夜。俺は智駿さんに謝ろうと智駿さんに会う。智駿さんの部屋で、テーブルを挟んで向かい合いながら……どことなく重い雰囲気。 「あ、あの……俺も油断してたのが悪いんですけど、ほんとに俺はあの子に目移りしたとかそんなことがなくて、そのー……キスは不意打ちすぎて避けられなかったといいますか……」 「梓乃くん……いつもだけど、油断しすぎじゃない?」 「……す、すみません……」  智駿さんは、かなり怒っていると思う。今までも俺は油断のせいで浮気寸前のことをして(されて)しまったことがあるわけだけど、今回はNGだ。女の子が相手で、キスまでされて、しかも元カノ。恋人としては一番面白くないパターンだと思う。 「別に元カノと会うなとは言わないけど、梓乃くん、人の好意をかわすの下手だから気を付けて」 「はい……」 「あと梓乃くん、自分がモテるって自覚したほうがいいよ?」 「え、えー……あ、はい……ごめんなさい……」  怒っているけれど、智駿さんは俺に愛想をつかしたわけではなさそうだ。ホッとしながらも、申し訳なさで胸がきゅーっとなる。智駿さんが注いでくれているコーヒーをどんどん飲んでしまうくらいに舌が乾く。  こうして智駿さんが束縛をあまりしてこないのは、智駿さんが俺を信頼している証拠だと思う。だからこそ申し訳なくて辛い。もうちょっと警戒心をもたないとかな……と改めて反省する。 「ううん、でもいいよ。梓乃くん、浮気なんてしないし」 「……ほんとうにごめんなさい」 「そんなに怒ってないよ、気にしないで」  しゅん、としていれば智駿さんが苦笑する。救われたような、やっぱりまだ申し訳ないような。「まあまあ」と言って注いでくれるコーヒーをひたすらに飲みながら、俺は「ごめんなさい」を繰り返していた。 「あの……智駿さん、……ごめんなさい、お手洗いを貸してください」  優しい智駿さんに余計に罪悪感を覚えて心臓がきりきりとするのと、ちょっとコーヒーを飲み過ぎたのでトイレにまでいきたくなってしまった。このタイミングは最悪だな~、と思いつつも、我慢するのも苦しい。俺はそれはもうへこへことしながら立ち上がる……が。 「待って、梓乃くん」 「……はい、」  智駿さんが、俺の手を掴んで引き止める。正直、今引き止められるとちょっとキツイ。ただこの雰囲気のなか智駿さんの手を振り払うこともできず俺が固まっていると、智駿さんも立ち上がる。 「こっちにきて、梓乃くん」 「えっ、ちょ、ちょっと待って下さい……すみません、あの、お手洗いを、」 「うん、わかってる」 「智駿さん……!?」  智駿さんは俺の手を引いて、歩き出した。その方向は、トイレかと思いきや……浴室。 「これだけは脱ごうか~」 「えっ、なに、なに智駿さん!?」  このまま一緒にお風呂に入る流れになるのかな、と思いきや、脱がされたのはズボンだけ。シャツと下着は身につけた状態のまま、中に入れられてしまう。  いや、この状況は不思議でこれから何をされるのか気になるところだけれど、とにかく俺は今、トイレにいきたい。こんな状態だとたとえエッチをするにしても集中できないから、申し訳ないけれど先にトイレに行かせて欲しい。俺は視線で智駿さんにうったえてみたけれど……智駿さんはにっこりと微笑んだまま。 「はい、座って」 「ち、ちはやさん……あの、」 「うん、そして、脚はこうね」 「ま、待って無理無理、智駿さん、」  優しいまなざしの圧力で、俺はそのままシャワーチェアに座らせられた。そして、後ろから脚を持ち上げられて、シャワーチェアの上でM字に開脚させられる。食い込んだ下着が股間を圧迫してきて……余計にトイレにいきたくなって、さあっと血の気が引いてゆく。 「ご、ごめんなさい智駿さん、先にトイレに、」 「ここでしなよ」 「……へっ!?」  するり、智駿さんの手が俺の下腹部に伸びてくる。そして、下着の上から俺のチンコをすうっと指先で撫でてきた。ぞわぞわっとして、その刺激でさらに尿意が強くなってきて……頭の中が真っ白になってゆく。 「――僕に、恥ずかしいところみせてごらん。誰にもみせられない、恥ずかしいところを、僕だけに」 「……っ」 ――これは。  油断のし過ぎで浮気一歩手前のことを何度かしてしまった俺への、躾だ。そう気付いた俺は、動物的な本能で逃げ出そうと藻掻いた。しかし、限界に近い尿意と、片脚をがっちりと拘束されているせいで逃げ出すことなんてできない。後ろから俺の顔を覗きこんできた智駿さんと、目が、合う。 「……ち、智駿さん……」  それはもう、すごいサディストの目をしていた。そして、すさまじいほどの独占欲も渦巻いていた。こんな状況なのにそんな智駿さんの目にドキンと心臓が跳ねて……抵抗したいという気持ちが失せてゆく。  でも、流石に。ここで出すわけにはいかなかった。恥ずかしい。体勢とか、下腹部に微弱な刺激を与えられたりとかで我慢がしづらいけれど、俺は必死に堪えていた。 「我慢しなくていいのに。ちゃんと見ていてあげるから」 「ちはやさん……っ、でも、これは……恥ずかしい、です……!」 「僕との仲でしょう? 恥ずかしいことなんて、なにもないよ。ほら、見せて」 「あっ、ちょっ……ちはやさん、だめっ……!」  我慢して我慢して、なかなか出そうとしない俺に、智駿さんは痺れをきらしたのか。ゆるく俺のチンコを下着の上から掴むと、人差し指の先で先っぽをいじり始める。……しかも、尿道のあたりを執拗に。流石に指を尿道になんて入れられるわけもないけれど、でもぐりぐりとされると尿道の先のほうからじんじんと刺激が奥の方までやってきて……ぞわぞわと、さらに尿意が強くなっていく。 「あれ? 気持ちよくなってきた? 少しかたくなってきたね」 「だって、っ……そんなところ、いじるから……!」 「んー? ここいじられるの、好き? もっと強くぐりぐりしてあげる」 「んっ、やぁあっ……だめぇ……」  尿意なのか、快楽なのか。どちらか定かではないゾクゾクとした感覚が下腹部に広がって、腰がガクガクする。このままだと、本当にやばいと思うのに……気持ちよくて、俺はそれを拒めない。

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